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第16回 尿路結石 岡山中央病院 入江伸医師 衝撃波破砕が9割超 発熱は重症の可能性

 いりえ・しん 岡山大医学部卒。香川県立中央病院、岡山大病院を経て、1987年4月より岡山中央病院泌尿器科。56歳。岡山市出身。

 腰部に激しい痛みが走る尿路結石は、治療技術の進歩でほとんど入院の必要がなくなったが、患者は増加傾向にあり、再発のリスクも高い。岡山中央病院(岡山市北区伊島北町)の入江伸医師に、症状の特徴や治療法、再発防止策などを聞いた。

 ―激しい痛みがあると聞きます。症状にはどんな特徴がありますか。

 結石が腎臓にある間は、ほとんど症状が無いことが多いです。私も35歳の時になったからよく分かるのですが、ある時ドーンと下腹が痛くなって、振り返れば半年ほど前から腰がだるかったかなという感じです。腎臓でできた石が尿管に落ちると転げ回るほど痛くなり、尿が流れなくなって腎臓が腫れてさらに痛みます。経験的に冬より夏の方が患者さんは多いですね。

 9割が痛くなって来院しますが、痛みと重症度は比例しません。最も注意すべきは熱です。38度程度の発熱では病院に来ない人が多く、3日も放っておくと膿腎(のうじん)症で腎機能が失われることがあります。敗血症になって命にかかわることもあるので、一度、尿路結石になった人には、風邪でもないのに熱が出たらすぐ来院するよう念を押しています。

 ―病院での診断法を教えてください。

 8割はエックス線撮影で結石の場所が特定でき、超音波検査で腎臓の腫れを確認して治療を始めます。エックス線で石が見つからなければ、盲腸炎や憩室炎の可能性もありますが、これは触診でびくっと反射的な痛みがあるから分かります。そうでなければコンピューター断層撮影(CT)の画像で結石が見つかります。

 一般のエックス線撮影でまったく写らない無影結石は約5%で、ほとんどが尿酸結石です。これは尿をアルカリ性にする薬で溶解療法を試みます。

 あまり痛まない腎結石に人間ドックなどで気付いた場合は、大きさが10ミリ以上であれば治療を勧めます。

 ―体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が普及していますが、治療法はどう決めますか。

 まず、座薬か注射で痛みを抑えます。尿酸結石とシスチン結石は溶かす薬がありますが、ほかは基本的に薬で溶けません。膀胱(ぼうこう)と尿道の結石はESWLはせず、尿道から内視鏡を入れて取ります。石が大きい時は内視鏡からの超音波などで砕石します。

 腎臓、尿管の結石は6〜7ミリ以上の大きさならESWLです。それより小さくても、熱があるときや痛みが我慢できないときにはESWLを行います。鎮痙(ちんけい)剤を処方して運動と水分摂取で自然排石を待つ場合も、1カ月間出なかったらESWLをします。治療後は血尿が出ることが多く、2〜5%の割合で腎臓の周囲に血腫ができて痛むことがありますが、後遺症は残りません。

 岡山中央病院の場合、年間約800例ある尿路結石の治療のうち9割以上がESWLによる治療で、ほとんどは日帰りです。

 ―ESWL以外の治療はどんな場合に行いますか。

 サンゴ状結石など腎臓の30ミリを超えた石は経皮的腎砕石術(PNL)を考えます。背中に小さな穴を開けて腎臓内に内視鏡を入れ、砕石しながら吸引します。最近は細く軟らかい内視鏡を尿道から腎臓まで入れて、レーザーで腎結石を砕く方法も広まっています。

 1980年代にESWLが導入されてから結石を積極的に治療するようになったので、大きい石は減っています。当病院のPNLは現在、年間10例程度です。PNLの後、残った石にESWLをする場合もあります。

 腎機能が落ちて結石が尿管にこびりついていたり、硬くて割れにくい場合には経尿道的尿管砕石術(TUL)になります。これは増える傾向にあって年間30例ほどです。尿管結石は上部、中部、下部に分けられ、中部と下部でTULは多くなります。

 血液検査で敗血症が疑われる場合、膀胱から尿管ステントを入れたり、腎臓にチューブを入れたりして緊急避難的に尿の逃げ道を作ることもあります。

 ―予防と再発防止にはどんなことに注意すればよいでしょうか。

 尿路結石は生活習慣病の一種と言えます。ばりばり仕事をして夜遅くに大量に食べて寝るという生活が極めて悪く、脂肪、尿酸、コレステロールが高い人は要注意です。日本食中心の食事にし、夕食は寝る4時間以上前に済ませてください。再発率の高い病気ですが、ESWLが普及してから患者さんが食事療法に真剣に取り組まない傾向があるのがつらいところです。年に1回のエックス線撮影、超音波診断を受け、尿酸値の高い人は下げる薬を服用してください。

 痛みが再発したり血尿が出ても、なかなか病院に来ない人がいます。似たような痛みの病気に腹部大動脈解離があり、血尿は膀胱がんや腎臓がんの可能性もあるので、症状が出たら必ず病院で調べ直してください。


病のあらまし

 尿の通り道である腎臓、尿管、膀胱、尿道に石が発生し、多くは突然の激痛で気付く。日本では腎臓、尿管の結石が95%を占め、膀胱、尿道結石は5%。100人のうち7、8人が一生に一度罹患(りかん)するといわれる。2対1以上の比率で男性に多く、40代に発症のピークがある。

 9割がカルシウム結石で、最大の誘因とされるのが食事。戦後、食生活が欧米化したことに伴い、増加傾向にある。残り1割に尿酸結石、感染結石、遺伝的要因が強いシスチン結石が含まれる。

 治療法は衝撃波で石を粉砕する体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、背部に小さな穴を開けて超音波や空気の振動で腎臓の石を砕く経皮的腎砕石術(PNL)、尿道から内視鏡などを入れる経尿道的尿管砕石術(TUL)の三つがメーン。開腹手術は現在はほとんど行われない。5ミリ以下の石は、自然排石を待つ温存療法が中心となる。

 5年以内の再発率は50%ともいわれ、食事療法が大切。水分を1日2リットル補給し、野菜、海藻や大豆、魚、乳製品をバランスよく取る。結石を作りやすくするシュウ酸を多く含むホウレンソウやタケノコ、紅茶、チョコレートはカルシウムと一緒に摂取すると排泄(はいせつ)されやすい。尿酸結石の患者はプリン体を多く含むエビやレバーを避ける。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月10日 更新)

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