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変わる臓器移植 2 条件緩和 “生体”脱却へ期待 / 提供業務担う制度創設

看護師らに改正臓器移植法の要点を説明する安田コーディネーター(右)=川崎医科大付属病院

 「臓器移植法の改正で、本人の拒否がなく家族の同意があれば脳死による臓器提供が可能になります」

 川崎医科大付属病院(倉敷市)の一室。改正臓器移植法の全面施行(17日)を控えた6月下旬、岡山県臓器バンク(岡山市北区)の臓器移植コーディネーター安田和広さんが、40人の看護師らを前に臓器提供条件の緩和など法改正の要点を説明した。

 日本臓器移植ネットワークが認定するコーディネーターは、岡山県内では安田さんが唯一。ドナー(臓器提供者)となる患者の家族に移植への手順を説明する役割などを担う。これまでに心停止による提供を含め、40例にかかわってきた。

 「臓器提供を希望していても厳しい条件に阻まれ、移植を望む患者に提供できないケースも多々あった。無念さを感じてきた」と安田さんは打ち明ける。

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 1997年に施行された臓器移植法は「脳死は人の死か」という新たな死生観への戸惑いや、救命医療がおざなりにされるのではという懸念から、臓器提供はドナーカード(臓器提供意思表示カード)などで本人が提供の意思を示し、さらに家族が拒否しない場合に限るなど多くの“制約”があった。

 厳格な同法をクリアして実現した脳死からの臓器提供は13年間で86例にとどまる。一方、移植を希望し、日本臓器移植ネットワークに登録している患者(6月末時点)は心臓が169人、肺は150人、肝臓が270人など。移植医や患者らの条件緩和を望む声が法改正を後押しした。

 岡山大病院で肺移植を手掛ける大藤剛宏呼吸器外科講師は「やっと条件面などで欧米並みの環境になった。脳死ドナーが増えれば、健康体にメスを入れる生体移植から脱却できる」と歓迎する。

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 条件緩和により、救急などの医療現場では新たな対応が必要となる。

 臓器提供施設ではこれまで、脳死患者が発生した場合にドナーカードの所持を確認してきたが、国の調べで8・8%という低い所持率もあり、この段階で臓器提供できないケースがほとんどだった。だが、法改正で脳死ドナーは現在の10倍になるとの予測もある。脳死患者の家族に対し、臓器提供という選択肢を示すことが求められる。

 多忙な救急現場では消極的な医師もいるが、県内のある男性医師は「難しいし大変な作業だが、自分たちが意識を変え、一歩踏み込まなければ何も変わらない」と話す。

 しかし、提供の同意を得ても脳死判定、家族への説明といった多くの手続きがあり、主治医がすべてを担うのは難しい。そこで岡山県は「院内コーディネーター」制度を17日付で創設。県内の臓器提供病院の医師や看護師ら16人を県知事と病院長の連名で委嘱した。主治医らと対等な立場で円滑な臓器提供業務を担う。

 ただ、この13年間で県内から出た脳死ドナーは1人。心停止からの腎臓提供もこの5年間で2例で、どの臓器提供病院も経験は少ない。県医薬安全課の井藤隆介副参事は「院内コーディネーターは救命医療と移植医療をつなぐ重要な立場。定期的なシミュレーションなどでスキルアップを図る」と体制整備を支援する構えだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年07月18日 更新)

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