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家族承諾脳死移植へ 岡山大病院「重要な事例」

ドナーの入院していた病院へ出発する岡山大病院の医師団=9日午後6時45分ごろ、岡山大病院

 家族の承諾により脳死状態の患者から摘出した肺の移植手術を実施予定の岡山大病院(岡山市北区鹿田町)では9日、日本臓器移植ネットワークからの連絡を受け、移植チームが準備に入った。同日夕、3人の摘出チームがあわただしく新幹線で臓器提供者のいる病院に向かった。

 同日午後6時50分ごろ、チームの医師2人と技師1人が同病院を出発。手術器具の入ったスーツケースと臓器搬送用のケースを携え、緊張した表情でタクシーに乗り込んだ。

 10日未明から摘出手術を行い、移植できるかどうかを判断。可能であれば午前中には飛行機で帰岡、移植手術に入る。順調に進めば同日夕から夜に終了の予定。

 同大病院での脳死肺移植は17例目で、初の家族同意による提供に、執刀医となる呼吸器外科の大藤(おおとう)剛宏・肺移植チーフは「今後、臓器提供者が順調に現れ、移植医療に追い風になるかどうかの重要な事例。提供してくれた家族の意思にしっかり応えたい」と話した。

 患者は20代男性。肺の中のたんがうまく出せなくなるびまん性汎細気管支炎と診断され、2007年7月に同ネットワークに登録した。


岡山の医師や有識者
「一般的医療への一歩」/「拒否の確認欠かせず」


 家族の承諾による脳死肺移植が岡山大病院で実施見通しとなった9日、岡山県内の医師や有識者からは、移植医療に弾みがつくとの期待の一方、本人の意思確認の在り方に警鐘を鳴らす声も出た。

 日本臓器移植ネットワーク西日本支部長補佐で、国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区)の田中信一郎・移植センター長は「普段から家族間で移植について話し合うことで本人の提供意思が生かせたケース」と歓迎。元日本移植学会理事で、岡山大病院で脳死肺移植を手掛けた岡山労災病院(同市南区)の清水信義院長は「思ったよりも早く法改正によるドナーが出た。移植を待つ人たちには大変な恩恵で、脳死下での臓器移植が海外同様、一般的な医療に近づく一歩だ」と言う。

 一方、岡山大大学院の粟屋剛教授(生命倫理学)は「法律は本人が拒否していなければ臓器摘出を可能とするもので、自己決定権の空洞化という問題がある。拒否していなかったかどうかの確認は欠かせず、今後のケースを注視していく必要があるだろう」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月10日 更新)

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