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肺手術「次につながる成功」岡山大病院チーム安堵 家族承諾 初の脳死移植

到着した臓器搬送用のケースを運ぶ医師ら=10日午前9時12分、岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)は10日、改正臓器移植法に基づき、家族の承諾で初めて脳死と判定された20代男性からの両肺を中国地方在住の20代男性に移植する手術を行った。手術は無事終了し、患者の容体も安定。移植医療の行方を占いかねない節目となるケースだけに、移植チームは安堵(あんど)の表情を見せた。

 「法改正後の1例目は注目が集まるだけに、成功できたことで次につながる」。手術後、呼吸器外科の三好新一郎教授とともに会見した大藤(おおとう)剛宏肺移植チーフは、こう語った。同病院に入通院する日本臓器移植ネットワークの肺移植希望登録者は約30人。今後、臓器提供の機会が増えることに、期待をにじませた。

 関東地方の病院で同日摘出された両肺は羽田空港から定期航空便で岡山空港に運ばれ、岡山県臓器バンクの緊急車両で岡山大病院に到着。手術は午前8時40分ごろ開始され、午後4時に終了した。早ければ1カ月以内に退院できるという。

 患者は気管支が細く、たんが出にくくなる感染症のびまん性汎細気管支炎。酸素吸入が常時必要な状態という。

 「(患者は)移植に複雑な思いも抱いていたが、ドナー(提供者)の分も生きることで感謝を示したいと前向きな気持ちで手術に臨んだ」と大藤チーフ。「移植医療を遠い世界の話と思わず、通常の医療として認識してもらえるようにしたい」と話した。

 同病院の脳死肺移植は17例目。


節目迎え「関心持って」 執刀チーフ一問一答


 岡山大病院で脳死肺移植を執刀した大藤剛宏肺移植チーフとの会見での主なやりとりは次の通り。

 ―手術を終えた感想は。

 改正臓器移植法施行は大きな期待を持って迎えた節目。本人の意思を示す書面なしに、家族の承諾で臓器提供する初の適用例となることは、世間から注目される。この中で臓器提供者(ドナー)となる決断をされたご家族のためにも必ず成功させ、次につなげたいと思っていた。重要で責任ある手術を無事に終え、安堵している。

 ―改正法施行から約3週間で初めて脳死ドナーが現れた。

 海外で移植医として勤務した経験から言えば「遅い」という感覚もあるが、ドナー家族の心情を思えば「早い」とも言える。

 ―法改正で脳死ドナー数が10倍になるという予測もある。岡山大病院で手掛ける生体肺移植との関係は。

 脳死ドナーが増えれば(健康体にメスを入れる)生体肺移植の必要はなくなるが、これは理想論。実際は移植の順番はすぐにはこない。容体が急激に悪化し猶予がない患者や、どのくらいドナーが現れるか分からない小児を救う緊急措置としての役割は残るだろう。

 ―移植医として訴えたいことは。

 だれもが移植が必要になる可能性があり、家族がいつ脳死状態に陥るかもしれない。移植医療を遠い世界の話だと思わず、関心を持ってもらいたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月11日 更新)

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