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脳卒中 倉敷中央病院

顕微鏡下で行われる内頸動脈内膜剥離術

【写真左から】山形専副院長、半田明部長、鳴海治部長、定政信猛・脳卒中科・脳神経外科医長

脳卒中患者の術後管理をする脳神経集中治療室

24時間体制で患者受け入れ
地域の医療機関と連携、情報共有


 がん、心臓病に次いで日本人の死因3位の脳卒中。死に至らずとも重篤な障害が残ったり、寝たきりになる恐れも否めない。岡山県西部の急性期基幹病院である倉敷中央病院(1151床)は、2005年から脳卒中科を設け、24時間体制で患者を受け入れている。06年には倉敷市内と周辺の医療機関とともに「くらしき脳卒中地域連携の会」を立ち上げた。患者の治療計画を参加医療機関で共有して円滑な転院を図り、より一貫した治療、リハビリ、看護を行っている。

 脳神経外科を母体に開設された。脳神経外科と神経内科の医師が兼務する形で、山形専副院長(脳卒中科・脳神経外科主任部長)をはじめスタッフ約15人体制。軽症患者、緊急手術を要する重症患者、治療後のフォローアップ(経過観察)で来院する人など受け入れ間口は広い。

 「内科、外科の枠を取り払って総合的な診療を行っている」と山形副院長。脳卒中は「急性期の診断と治療が予後(医学的な見通し)を決定する大きな因子」と語る。

 9月に完成した新館にある脳神経集中治療室(NCU)14床、一般病床約70床を受け持つ。脳卒中科開設に伴って入院患者は従前の約1・5倍に増え、年間約900人で推移している。09年の入院患者は脳梗塞(こうそく)572人、脳内出血176人、くも膜下出血76人など。

救急体制

 脳卒中専門医のいない地域の医療機関と倉敷中央病院を結ぶ画像伝送システムを構築済み。送られてきた頭部CT(コンピューター断層撮影)画像などを専門医が24時間体制で診断し治療方針を指示する。

 当直医は2人体制(脳卒中科、脳神経外科各1人)。救急隊や開業医とのホットラインが設けられ、当直医に直接連絡がある。

 CT、MRI(磁気共鳴画像装置)、脳血管造影の各検査と緊急手術は24時間対応できる。くも膜下出血は、CT検査と脳血管を立体的に描出する3D―CTA(3次元脳血管造影)検査によって患者到着後約20分で診断がつく場合もあり、必要なら手術に入る。

治療

 09年の脳卒中の外科的手術は、くも膜下出血を引き起こす破裂脳動脈瘤(りゅう)52例、内頸(ないけい)動脈内膜剥離(はくり)術28例、未破裂脳動脈瘤23例、高血圧性脳内出血(開頭術)19例など。血管内手術は、ステント留置術11例、破裂脳動脈瘤塞栓(そくせん)術10例、未破裂脳動脈瘤塞栓術5例など。

 内頸動脈狭窄(きょうさく)症に対する内膜剥離術(外科的手術)とステント留置術(血管内手術)が近年増えた。同狭窄症は、高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病による動脈硬化が主な原因。血管の壁が内側に厚くなり、血液が通りにくくなる。

 内膜剥離術は、狭くなった血管の血流を一時的に遮断、頸部で内頸動脈を切開して動脈壁にたまったプラーク(粥腫(じゅくしゅ)=かゆ状のもの)を直接取り除く。ステント留置術は、足の付け根部分からカテーテル(細い管)を入れ、頸動脈血管を内側からバルーン(風船)で押し広げ、ステント(金属製の網の筒)を留置、血行を確保する。治療法の選択は、プラークの硬さ(性状)をMRI画像で評価して決める。「MRIによるプラーク性状評価は当院の先駆的な取り組み」と山形副院長。

 日本脳卒中学会専門医は山形副院長、半田明部長、佐藤宰部長、鳴海治部長、定政信猛医長、小柳正臣副医長の6人。半田部長と小柳副医長は頸動脈ステント留置術実施医で、外科的手術と血管内手術の両方を行う。半田部長は「外科的手術か血管内手術かの選択は個々の患者さんの状態を見て、スタッフの総意で決める」と言う。

 脳梗塞患者へのtPA投与は、06年3月からこれまでに約60例。くも膜下出血の術後の合併症である脳血管攣縮(れんしゅく)に対しては独自の洗浄液を使う脳槽潅流(かんりゅう)療法を行い、大きな効果を上げているという。

地域連携パス

 くらしき脳卒中地域連携の会には23医療機関が参加(今年3月現在)。同会は治療で協力するための計画「くらしき脳卒中地域連携パス」を08年から運用している。統一連携パス開発を担当したのが倉敷中央病院だった。

 脳卒中患者は治療の経過で転院するのが一般的。発症直後は急性期病院で治療を受け、後遺症があれば回復期リハビリ病院で訓練、退院後は再発予防のため地域の開業医などに通う。こうした治療の流れを入院患者に冊子で説明している。

 連携の会参加医療機関はネット上のデータベースで患者情報を共有している。医師ら医療従事者のID・パスワード、患者が持つ脳卒中診療連携カードの連携番号と生年月日でアクセス。発症時の状況や投薬など治療内容、病状・日常生活動作の変化、リハビリ内容などを閲覧、記入する。セキュリティーはIDと患者の匿名化、データの暗号化で3重の対策を施した。

 ネットでの連携パス開発に携わった鳴海部長は「ネットを活用し、いつでも迅速かつ双方向で情報をやり取りする。開業医とも連携している。この二つが他地域の連携パスと違う点」と話す。倉敷中央病院では脳卒中の入院患者の約8割が連携パスに登録している。



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薬袋 シロスタゾール
脳梗塞再発を抑制


 脳梗塞(こうそく)再発抑制のために用いる抗血小板薬の一つ。アスピリンやチエノピリジン系の薬に比較して出血性合併症が少ない。また、血小板への効果は可逆性(血小板がもとの状態に戻る)であり、手術の術前に必要な休薬期間も比較的短い。

 最近の大規模試験結果によると、アスピリンに比べて有意に脳卒中再発を抑制し、脳出血を含めた出血は少なかった。頭痛や動悸(どうき)、出血傾向が主な副作用であり、グレープフルーツジュースにより副作用が出やすくなるため注意を要する。頭痛や動悸が激しい場合や、けがなどによる出血が止まりにくい場合は近くの医療機関に相談する。

 (定政信猛・脳卒中科・脳神経外科医長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月18日 更新)

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