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おかやまの地域医療と岡山大学第2回 (下) 岡山型ER構築し 市民の安心を守る

いちば・しんご 1987年、岡山大学医学部卒。同部第2外科助手、香川県立中央病院救急救命センター医長、岡山大学医学部・歯学部付属病院救急部講師などを経て2010年から現職。専門は救命救急医学。48歳。

市民の利便性や他医療機関との連携しやすさなどを考え、岡山市は岡山総合医療センターの整備地に岡山操車場跡地の市有地(点線部分)=岡山市北区北長瀬表町=を選んだ

(上から続く)


槇野 病院の機能分担を推進

松本 社会的弱者の受け皿に

市場 救急医を増やしていく

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実現への課題

 -岡山市内の病院の声は必ずしもERに好意的なものばかりではない。総合医療センターと各病院の連携やスタッフ確保、医療福祉連携も課題だ。

 松本 「総合医療センターがあるから有り難い、助かる」といってもらえるよう、実践して理解を求めていくつもりだ。理想は、精神疾患やホームレスといった方の急病の際のスムーズな受け皿になること。民間がやるには人材面でも金銭面でも厳しいからこそ、岡山市の持つ福祉事務所や社会福祉協議会などの力を集めて社会的弱者を診断・治療する機能を果たしていければと考えている。本当にその気があればできる。

 医師が集まる病院とは、教育が充実し、多彩な症例があって医師のやりたいことができる病院だ。岡山大学と連携したことは大きなプラス。実際に4月以降、市民病院で働きたいという医師は増えている。全国にアピールすれば、ERについて学びたい医師が必ず来る。

 医療福祉連携問題は今後高齢化が進めば、誰にとってもひとごとではない。自分が脳卒中になったとき、そのあとどうなるか。真剣に考えてほしい。安全・安心はみんなで確保しなくてはいけない。

 槇野 救急医療の整備は市民が求めている大きなニーズで、それに応えるのが医療機関の役目だ。また、大学の特性というのは教育機関であり、総合医療センターで学生、研修医の教育もできる。総合医療センターの役割やERの必要性について市民と一緒に考えていきたい。

 今年4月に岡山大学にできた寄付講座の地域医療学講座に、岡山市から4年間限定で多額の予算をつけていただいた。ER体制に向けた全体の連携や機能の分担などの必要性をPRする役割がある。また、今後の救急医療を担う医療関係者の育成プログラムをしっかり作る狙いもある。「医者になりたい」という熱い意志を持って大学の医学部に入ったのに、2年間の教養課程で意欲がしぼむということもある。この期間に地域医療学講座で地域医療を肌で感じられるようにしなければと思っている。

 また、大学病院にいるといろいろな地域の医療機関から医師の派遣要請があるが、その要請を聞いていると病院の機能分担の必要性を感じる。どの病院からも同じような人材を要請されており、効率の悪さは否定できない。ERができ、岡山市内で機能分担が進めば、市民にとっても大学にとっても良いことだ。

 市場 ERで働ける医師を育成することが重要。救急専門医の資格を目指す医師を育成し、救急の医師を増やすことが、安定したER体制の継続には必要だ。総合医療センターが、その役割を担える。

若者に期待

 -今後の岡山、ひいては日本の医療を担う若者に伝えたいことは。

 松本 岡山大学は高度医療の研究・臨床機関であるべき。最先端の医療を実践してもらいたい。しかし学生の臨床教育では、救急まで臨床実習を行うのは負担が大きい。そこで市民病院、将来的には総合医療センターが貢献できればと思う。また市民病院も高度医療に一緒に取り組むことで、より発展する機会を与えていただける。若者に救急医療や地域医療の魅力とやりがいをぜひ知っていただきたい。また、そうなるよう努力を続けたいと考えている。

 市場 学生の6年間のうちに部活や先輩後輩、その他多くの人との交流などを通し、医療技術はもちろんだが、医師として何が大切なのか理解することが大事だ。また、ホームレスの医療福祉面での救済方法などの、さまざまな社会的問題についても学んでほしい。

 槇野 教育は押し付けでは駄目。自主的に勉強する気を起こさせるのに実地体験というのはインパクトが大きい。そういった意味ではERはまさに生きた医学教育の実践の場である。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の源流の一つ、岡山大学医学部は創立140周年を迎えた。日本で2番目に長い歴史と伝統に根差した先端的研究や医療人の育成に貢献してきたと自負しているが、さらに市民にとって身近で愛される大学病院にしていきたいと感じている。

 「いつもあなたのそばに先進医療」を合言葉に、いざというときはわれわれの技術を手軽に利用してもらえる体制づくりを進めたい。総合医療センターへの協力で、市民の安心にもっと貢献していければと思っている。

 一つの病院に加担するのではなく、岡山の医療界全体が進歩していくための礎(いしずえ)になることが大切。そうすることで今後高齢化社会が進展しても、岡山は医療福祉が充実していて住みやすいと評価される。そうなってこそ岡山大学医学部にも存在価値がある。


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地域医療学講座
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 岡山総合医療センターの運用を視野に、救急医の養成を目指す岡山市の寄付講座。岡山大学に今年4月開設され、研修医が患者を治療しながら救急医療を学ぶほか、ERシステムの構築や研修プログラムの開発に取り組む。

 市民病院を拠点に、同病院と岡山大学病院の研修医らが救急医療を中心に学ぶ。救急現場では患者や家族への的確な医療情報の提供などで専門知識が特に必要。研修医らは高度先端医療中心の岡山大学病院では学びにくい、初期救急の診療、診察の能力を身につける。

 一方、全国的にも珍しいERを公共性と経済性を両立して展開していけるよう、運営の方法についての実証実験を行っている側面もある。


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現場からの声
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市民病院救急センター研修医 戸島 慎二さん

 研修医になって1年目なので、これまでの救急と現在のER体制の救急を比べることはできないのですが、ほとんどの時間帯に救急の先生が1人はいる状態は頼もしいと感じます。私の知っているかぎり、常に救急の対応はスムーズに進んでいます。

 夜の時間帯には救急の先生と当直の先生がおり、看護師や私たち研修医も多く待機しています。大勢で協力していくことで仲間意識がつくられ、チームとしてまとまってきたと思います。

岡山大学から来ている研修医 大道 亮太郎さん

 ERなので幅広い疾患をみることになります。全科にわたって症例に対処することになり、対応が基礎から学べるのはいいなと感じています。

 今後の岡山のER構想を考えるともう少し医者の数を増やす必要があると思います。総合医療内科、外傷系のオペができる先生が不足しているからです。

 北米タイプのERを目指すのならば医療従事者の教育をどうするのかは重要な問題。日本に合ったERを岡山から発信できればいいと思っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月20日 更新)

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