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子ども脳死臓器提供、虐待見落としに不安 香川県内5病院 難しい見極め確認へ負担大 懸念あれば見送り

小児の脳死臓器提供を想定した香川大病院の訓練で、家族への説明手順を確認するスタッフ。態勢は整えたが虐待見落としの懸念もある=5日

 15歳未満の子どもからの脳死臓器提供を可能にした改正臓器移植法の全面施行(7月17日)から3カ月。香川県内で提供病院と位置付けられた5病院は、香川大が院内訓練も終えて態勢を完全に整備し、他の病院も整えつつある。その中での医療関係者の懸念は、法が禁じる虐待を受けた子どもからの提供。虐待見落としへの不安から「曇り」があれば見送るとの声もある。



 改正過程で議論となったのは「親が虐待の事実を隠して提供したらどうするのか」だった。改正法では、提供病院に(1)虐待防止委員会の設置(2)虐待対応マニュアルの整備―の二つを求めて、見落としを防ぐとしている。

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 県内の提供病院は、香川大▽県立中央▽香川労災▽回生▽香川小児―の五つ。山陽新聞社の調査などによると、改正法の2要件を満たし、院内訓練も終えるなど態勢を整えたのは香川大だけだ。

 香川労災は、委員会設置とマニュアル整備の2要件は大体整えたが現段階での提供実施には不透明感がある。「子どもが対象なので一層の慎重さが必要」として来月、院内協議を行うためだ。県立中央は「委員会は設置したが虐待対応マニュアルを調整中」。香川いのちのリレー財団によると、回生は準備の最終段階にあるという。

 改正法で新たに提供病院となった香川小児は「提供に関する院内の機運が未成熟」などの状況で、厚生労働省の照会にも「態勢未整備」と回答している。

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 態勢を整えた香川大だが、不安はある。石田俊彦院長が言うように「虐待を見極めることは難しい」からだ。

 一般的に虐待は4種類に分類される。暴力を伴う身体的虐待のほか、いずれも外見上の判断が難しい心理的虐待、性的虐待、ネグレクト(養育放棄)。厚生労働省臓器移植対策室は、改正法が対象とする虐待について「いずれかの種類に特定しているわけではない」と説明する。

 子どもが意識のない状態で虐待の有無をどう判別するのか。

 身体的虐待の場合は外傷の有無が有力な手がかりとなるが、心理的虐待など、隠れた虐待の有無を確かめるには家庭環境などの調査が重みを増す。「児童相談所や福祉事務所、警察とも連携した情報収集が必要」(同財団)となるが、成人からの提供でも大きな労力が求められる病院の負担が増すのは確実だ。

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 「果たして家族が同意するだろうか」。香川小児の中川義信院長は、提供の可能性に懐疑的な見方を示す。その一方で、子どもへの生体肝移植を多数手がける国立成育医療研究センター(東京)の松井陽院長は善通寺市での7日の講演で「(あっせん機関の)日本臓器移植ネットワークに問い合わせ自体はあると聞いた」と述べた。

 日本の脳死移植には負の歴史がある。移植ありきの脳死判定との疑惑を招き、社会の不信感を招いた札幌医科大での「和田心臓移植」(1968年)。この反省も受け、石田院長は「一点も曇りがないと言い切れなければ、提供は見送らざるをえない」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月24日 更新)

タグ: 子供

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