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(1)ライフスタイルと病気 川崎医大産婦人科教授 下屋 浩一郎

図1

図2

下屋浩一郎・川崎医科大産婦人科教授

 「女性の体 女性の病気」をテーマに、さまざまな女性特有の病気について川崎医大(倉敷市松島)の医師に寄稿してもらう。



 最近は、性差医療と言って男女のさまざまな差異により発生する病気や病態の違いに注目する医療が重視されるようになってきました。女性には男性と大きく異なるいくつかの体の特徴があります。

 第一に女性の一生には女性ホルモンのダイナミックな変化があることです。もちろん男性にも性ホルモン分泌の変化がありますが、女性の場合、初経(初潮)に始まって閉経へとダイナミックに変化します。女性ホルモンは主に卵巣から分泌されますが、ホルモン分泌は排卵と密接に関連しています。また、女性ホルモンは女性らしさを保つばかりでなく、乳房、子宮などの臓器さらには骨、血管、自律神経などさまざまな場所に作用します。そのため、性ホルモンのアンバランスや欠乏は女性の健康に大きな影響を及ぼし、月経異常(痛み、量の異常、周期の異常)、不妊症、不正出血、更年期障害さらには心疾患などの全身の病気の原因となります。

 産婦人科は、図1に示すように思春期から性成熟期、妊娠・出産、更年期、閉経に続く女性の生涯にわたって女性の健康増進、病気の治療に貢献しています。

 第二に女性の体の特徴として図2に示すように腹腔(ふくくう)(おなかの中)が女性の内性器である卵管・子宮・膣(ちつ)を介して外とつながっていることです。これは、女性が妊娠・出産のために必要な仕組みですが、一方では男性に比べて女性では腹腔内に病原菌が侵入しやすい環境となっています。さらに病原菌の感染の場所が妊娠・出産に重要な場所と重なるために女性の骨盤内の感染症は不妊症、妊娠中の流産・早産などの合併症の原因となるばかりでなく、生まれてくる赤ちゃんへの感染すら引き起こすことがあります。

 また、女性は子宮や膀胱(ぼうこう)などの骨盤内の臓器を骨盤の底で支える必要があり、支えがうまくいかない場合には子宮などの臓器が下垂して骨盤臓器脱という病気を引き起こすことがあります。

 第三に女性は妊娠・出産という男性には経験することのできないイベントがあります。妊婦健診の充実や栄養・住環境の改善などによって妊娠・出産は女性にとって安全なものになってきました。

 平成20年と昭和35年を比べると妊産婦死亡は出産10万当たり昭和35年には117・5人であったものが、平成20年には3・5人になり、新生児死亡も千人当たり昭和35年には17・0人であったものが、平成20年には1・2人となっています。いずれの数字も世界でトップレベルの水準となっていますが、逆に言うと今でも2万8千人に1人の女性が妊娠によって命を落としている現実があります。この点では今も昔も妊娠・出産が命がけであることには変わりがないと言えます。

 ヒトの一生の中で胎児期(お母さんのおなかの中にいる時)の影響が成人期の健康に最も大きな影響を及ぼすということが分かってきました。これを胎児プログラミングと言いますが、生まれた時の体重が重いほどその方が成人した後の糖尿病や高血圧などの病気になりにくいというものです。日本は世界一の長寿国となっていますが、最近生まれてくる赤ちゃんの体重がさまざまな要因から減少しています。そのため、将来の生活習慣病の発症増加につながることが懸念されています。妊娠中女性が健康に過ごすことは、赤ちゃんの健康にとって重要であるばかりでなく日本の将来にとってもとても大切なことなのです。

 女性が一生の中でライフプランを選択して妊娠・出産をコントロールしていくことが重要と考えられています。これをリプロダクティブライツと呼び、女性の権利として位置付けられるようになりました。したがって妊娠をコントロールする避妊が重要です。避妊については日本では学校教育も含めてあまり多くを語られずにきました。そのため、今なお日本では数多くの妊娠中絶が行われていることに目を背けることはできません。こうしたテーマも本シリーズでは取り上げていきたいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年11月01日 更新)

タグ: 女性

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