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中皮腫 岡山労災病院 アスベスト疾患ブロックセンター 早期診断に力、胸腔鏡で生検

胸腔鏡生検はモニターで観察しながら慎重に行われる=岡山労災病院手術室

(左から)岸本卓巳副院長、西英行第2外科部長、玄馬顕一呼吸器内科部長、藤本伸一呼吸器内科副部長

 肺を包む胸膜などに発生する悪性腫瘍・中皮腫は、目に見えない繊維アスベスト(石綿)暴露との強い関連が指摘され、現在、最も治療法の進歩が望まれているがんの一つだ。社会問題化する以前から取り組んできた岡山労災病院は、アスベスト疾患ブロックセンターを設けて早期診断に力を注ぎ、労災申請やアスベスト新法による救済給付のアドバイスなど、患者、家族の生活支援にも配慮している。

 中皮腫はアスベストを吸い込んでから約40年という長い潜伏期間を経て発病する。日本のアスベスト輸入量は1974年に最高となり、90年代まで建設、造船、配管、電気工事など幅広い作業現場で使われていた。

 短期間の暴露でも発病する可能性がある。中皮腫による死者は10年間で約1・8倍に増えており、センター長の岸本卓巳副院長は「患者は今後も右肩上がりで増えるだろう」と警鐘を鳴らす。

 症  状 

 呼吸困難や持続する胸の痛みが主な症状だが、症状が現れない患者もいる。しかも進行速度はさまざまで、発病後は一日単位で胸膜全体に腫瘍が広がり、肺へ浸潤してしまう場合もある。

 アスベスト暴露した職歴のある人には石綿健康管理手帳が交付され、6カ月ごとに無料で健康診断を受けられる。岸本センター長は「早期発見のためにも手帳を取得し、必ず定期健診を受けるべきです」と呼びかける。申請手続きの相談などにも応じている。

 診  断 

 自覚症状があったり、画像で胸水貯留や胸膜の腫瘤(しゅりゅう)が見られれば中皮腫を疑い、精密検査する。胸水を調べても腫瘍細胞が検出されない場合が多く、確定診断には生検が必要になる。

 胸膜は外側の壁側(へきそく)胸膜と内側の臓側(ぞうそく)胸膜の二重構造になっており、局所麻酔下で胸腔(きょうくう)鏡を肋骨(ろっこつ)の間から二つの膜の空隙(くうげき)に挿入し、組織の一部を採取する。免疫組織染色して顕微鏡観察し、他のがんと鑑別するとともに中皮腫のタイプも調べる。

 手  術 

 治癒が望める治療法は、現状では外科手術のみ。患部側の肺を胸膜に包んだまま摘出し、接する心膜(心臓を包む膜)と横隔膜まで切除する「胸膜肺全摘術」が行われる。

 手術適応の判断には、がんの進行度、残す側の肺の状態とともに、年齢や体力も重要。副センター長の西英行第2外科部長は全国屈指の約30例を執刀した経験から、「無理な手術は本人がしんどいだけ」と話す。術後は片肺で生活しなければならない。呼吸機能などの検査値だけでなく、一緒に階段を上り下りしたり、本人の身になって確かめる。

 手術が成功しても、周囲の正常組織を含めた切除ができないため、局所再発が多い。チームが検討している術後の補助療法は温熱療法。42~43度の生理食塩水と抗がん剤を胸腔内に注入し、1時間程度循環させる。腫瘍細胞は正常細胞に比べて熱に弱い。「残存している腫瘍の芽をたたく効果が期待できる」(西部長)として、近く試行する予定だ。

 化学療法 

 効果が確認されているのは、2007年に承認されたアリムタとシスプラチンの併用療法。腫瘍細胞のDNA合成を阻害し、増殖を防ぐとされるが、白血球減少や腎障害の副作用も強い。

 副センター長の玄馬顕一呼吸器内科部長は4~6コース(1コース=3週間)の併用療法後、アリムタ単剤に切り替えて治療継続し、好成績を得ている。「副作用も抑えられ、経験的には維持療法に採用できる」と言う。

 同病院では新しい抗がん剤の治験も行われている。藤本伸一呼吸器内科副部長は「症例を積み重ねてエビデンス(科学的証拠)のある治療法確立を目指したい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年12月06日 更新)

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