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改正臓器移植法全面施行 手術計9件 過去最多に

改正臓器移植法の施行後初めて行われた脳死肺移植手術=8月10日、岡山大病院

 7月17日。本人の事前拒否がなければ、家族の承諾で脳死による臓器提供を可能にした改正臓器移植法が全面施行された。

 移植しか助かる道のない患者や脳死ドナー(臓器提供者)不足で目の前で亡くなってしまう患者を見送ってきた移植医にとって、大きな展望が開けた日となった。

 改正法施行から24日目の8月9日、関東地方の病院で家族承諾による初の脳死ドナーが現れ、岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で翌10日、20代男性患者=中国地方在住=に肺移植手術が行われた。

 「法の改正は大きな期待を持って迎えた節目。今回の手術成功で次につなげられた」。執刀後に会見した大藤剛宏肺移植チーフは、脳死ドナーの増加で多くの患者が移植を受けられるという新たな「ステージ」に入った移植医療に期待をにじませた。

 急増するドナー

 「だんだん調子が悪くなるのが分かるんです。風呂で髪を洗うのもつらくて。もう死ぬんじゃないかって」

 12月上旬、岡山大病院の病室。肺移植に向けた検査で入院していた50代の女性患者=県内在住=が息も絶え絶えに話す。病名はびまん性汎細気管支炎。気管支が細くなり、たんが出にくくなる。酸素吸入が常時必要だ。

 内科的な治療の限界を、地元病院の主治医から告げられた。女性は報道などで知った大藤チーフへの紹介を依頼し、同病院にたどり着いた。

 法改正後に現れた脳死ドナーは24人。年間では27人に上り、臓器移植法施行(1997年)以来、最多だった13人(07、08年)の2倍を超えた。

 「移植手術を受けさせてもらえる機会が増えたことは大きな福音。何とか病気を克服したい」と女性は力を込めた。

 モデルケース

 法改正後に県内で行われた脳死移植手術は岡山大病院で肺が5件と肝臓3件、国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)の腎臓1件、計9件で過去最多になった。

 11月26日には、福山市民病院(福山市)のドナーから提供された肺が岡山大病院、腎臓が岡山医療センターで移植される事例も。血流が途絶えると臓器は機能を失い始める。隣県という近距離間での提供と移植は時間の制約を受ける移植のモデルケースにもなった。

 法施行から13年。脳死ドナーの急増などで「特別」だった移植医療は、通常の医療へ一歩ずつ近づき始めた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年12月15日 更新)

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