文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 脳死肺移植に年齢制限の”壁” 60歳以上の患者、登録許されず 法改正でドナー増も・・・医師ら基準緩和訴え

脳死肺移植に年齢制限の”壁” 60歳以上の患者、登録許されず 法改正でドナー増も・・・医師ら基準緩和訴え

人工呼吸器を装着した男性患者に脳死肺移植について説明する大藤チーフ。男性の呼吸機能は日を追うごとに低下している=岡山大病院HCU

 家族承諾で脳死による臓器提供を認める改正臓器移植法の全面施行(2010年7月)以降、脳死ドナー(臓器提供者)は急増し、特別視されていた「移植医療」は身近になりつつある。移植手術を希望する患者も増えているが、その中には年齢制限という“壁”に阻まれ、臓器提供が受けられない患者がいる。法改正から7カ月余り―。移植医療の枠組みから外されながらも病気と闘う患者と、手を尽くす医師を追った。

 「孫と遊んだり、魚釣り…。やりたいことはまだある。もう少しだけ、家族と過ごす時間がほしい」

 岡山大病院(岡山市北区)入院棟にある高度治療室(HCU)。顔の半分を覆う人工呼吸器のマスクを付けてベッドに横たわる男性(62)=岡山県在住=が息も絶え絶えに声を振り絞った。

 病名は原因不明の特発性肺線維症。吸い込んだ酸素と体内の二酸化炭素を交換する肺胞の壁が厚くなり、呼吸機能が急速に低下していく病気だ。昨夏に突然発症し、年明けには岡山大病院に入院。「助かる道は肺移植しかありません」。主治医にはそう告げられた。今は人工呼吸器による強制的な呼吸で命をつなぎ留めている。

指針に疑問

 移植を担当するのは大藤剛宏・肺移植チーフ。両肺移植なら救命可能と診断した。医学的な理由から生体移植はあきらめ、脳死移植を目指して日本臓器移植ネットワークへの登録準備に着手した。院内の判定委員会の承認は取り付けており、近く中央肺移植適応検討委員会へ申請する。

 だが、大藤チーフの表情はさえない。検討委員会の示す指針に疑問があるからだ。それは「原則」ではあるが両肺移植55歳未満、片肺移植60歳未満という年齢制限だ。

 と言うのも改正前、移植で岡山大を訪れる60歳以上の患者は皆無だったが、法改正で移植医療への注目が高まり、希望者が相次ぐようになった。大藤チーフが改正後に診断した関東地方の男性患者2人はいずれも年齢制限をオーバー。「原則」との文言に望みを託し、検討委員会に申請したが、この時の判断は適用でも不適でもない「保留」だった。

生きる望み

 大藤チーフはこう考える。「年齢制限は脳死提供が少ない時代、若い世代への配分を高めることなどを狙いにしたものだろう。今は公的年金の支給開始年齢も引き上げられ、企業も定年延長している。基準を緩和すべき」

 2月上旬には関東の男性患者の移植手術を再申請。その際、「ドナーが高齢などの理由で使用されない肺もある。これを60歳以上の患者に提供する方法もある」との提案を添え、基準の再考を求めた。しかし3月3日に届いた再申請の結果は「不適」。患者は既に亡くなっていた。

 大藤チーフによると、世界的には60歳以上の肺移植は珍しいことではない。国際心肺移植学会の調査によると、2000〜09年に移植を受けた約2万人のうち25%を占める。

 岡山大病院HCUに入院する男性の家族は言う。「父は移植と大藤先生の行動に生きる望みをかけている。同じ境遇の患者さんのためにも『扉』が開くことを願っています」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年03月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ