文字 

岡山大脳死肺移植 ドナー不足、小児受けられず 積み残し課題浮き彫り

岡山大病院での脳死肺移植終了後、会見する医師団

 「脳死移植実施の陰で、多くの患者が待ち望んだまま亡くなっている」。岡山大病院での肺移植から一夜明けた二十六日、会見した医師団は臓器提供者(ドナー)不足を強く指摘した。臓器移植法による一九九九年の第一例から約七年。脳死移植を希望し海外に渡る患者は後を絶たず、小児への脳死移植は扉が閉ざされたまま。今回の移植は積み残しの課題を浮き彫りにした。

 「実績は十分。だが脳死移植を待つ患者が希望を持てるシステムは必要」。同病院の伊達洋至助教授は、会見でこう話した。同病院の脳死肺移植は七例目。生体を含めると四十五例になる。一方、現在同病院で脳死肺移植を待つ患者は三十五人で全国では約百十人。救命にはドナー不足の解消が欠かせない。

 脳死臓器提供では書面による本人の意思と家族の承諾が必要。だが、ドナーカード不携帯や家族の不同意で、提供の意思が埋もれた例もあるとみられる。移植医療に詳しい清水信義・同大副学長は「欧米諸国の中には家族の承諾のみでよしとする国もある。現在の書面方式は限界」と、要件緩和の必要を示唆する。

 現行法はまた、十五歳未満の脳死者からの提供は認めていない。小児は体のサイズに合った臓器提供が受けられず、脳死移植は事実上、閉ざされている。徳島県鳴門市、川上莉奈ちゃん(3つ)のケースでは脳死心臓移植を求めて昨年二月に渡米し、実現した。滞在費など経済的負担は大きく、県内でも募金活動が行われたのは記憶に新しい。

 一方、「人の死」の上に成り立つ脳死移植だが、そもそも日本での「脳死」は臓器提供に際してだけ認められた死の概念で、個人の死生観などで見方が異なるのも事実。それぞれの考え方が尊重される必要がある。

 厚生労働省は今月、二〇〇六年度の診療報酬改訂の方針の中で、肺や肝臓などの脳死移植に公的保険を適用する方向を打ち出した。“一般医療”に近づきつつあるとも取れる脳死移植はいま、在り方をもう一度考える時期に来ている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年01月27日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ