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(4)薬物療法~薬剤師の立場から~ 倉敷平成病院薬剤部長 市川大介

市川大介氏

 今からちょうど100年前の1921年に「インスリン」が発見され、抽出に成功したのが糖尿病薬物療法の始まりと言えます。80年代になって、遺伝子組み換え技術の進歩で「ヒトインスリン」の人工的大量生産ができるようになり、多くの命が救われてきました。また、2型糖尿病に対する経口治療薬の開発も進み、糖尿病型、年齢、体格、基礎疾患などにより、患者さん個々に合わせた薬物療法が選択できるようになっています。

 私たち病院薬剤師は、入院中の患者さんと対面して処方された薬の使い方や注意点を説明したり、糖尿病教室=写真=で患者さんやご家族とお話しさせていただく機会があります。中には、初めて糖尿病を指摘されて薬物療法が開始される患者さんもおられます。最近では薬の種類も増え、使い方や注意点が患者さんにより異なります。

 代表的な薬として、食事が消化管を通過した時に分泌されるGLP―1(glucagon―like peptide―1)を標的にした薬は、安全性が高く、多くの患者さんに使用されています。また、尿中に糖を排泄(はいせつ)するSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬は、心不全の患者さんや、1型糖尿病にも適応が拡大されましたが、水分摂取などの注意点もあります。

 最近では、注射するしかなかったGLP―1を空腹時に口から飲むことで、治療に使用できるような薬も開発されています。また食前か食後かなど、服用する時間を考えなければならない薬もあります。

 高齢になると、併せ持つ病気が増え、それぞれの担当の医師から多数の薬をもらうことで、「ポリファーマシー」という状態になっている患者さんが問題となっています。自分でも、どれが何の薬か分からなくなって、薬を飲み間違えたり、副作用の危険性を高めたり、治療効果が十分に得られなくなったりします。入院を契機に、薬一つひとつの必要性を判断し、医師と連携して薬の内容を整理することは、糖尿病治療でも欠かせない業務となっています。

 患者さんの中には、薬を飲んだら「下痢をした」「筋肉が痛い」「何か変だな?」と思っても、医師に言えずに薬を捨ててしまっているなどの話も聞きます。薬のことで心配事や悩みを医師に言えない場合には、私たち薬剤師に気軽に相談してください。

 日本人の大部分を占める2型糖尿病の多くでは、食事療法と運動療法が治療の鍵です。薬物療法は、薬を使って血糖値をできるだけ健康な方に近づけ、合併症を予防したり、進行を遅らせたりすることが目的です。薬で検査値が良くなったからといって治療を中断したり、勝手に食事を増やしたり、運動をやめたりすることの無いよう、正しい知識を身につけて糖尿病と上手に付き合いましょう。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 いちかわ・だいすけ 鳥取県立倉吉東高、岡山大学薬学部卒。同大大学院薬学研究科修士課程修了。万有製薬(現MSD製薬)を経て、2006年から倉敷平成病院勤務。13年同薬剤部長。日本糖尿病療養指導士、NST専門療法士、感染制御認定薬剤師、日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師、病院薬学認定薬剤師、日本薬剤師研修センター認定実務実習指導薬剤師、日本病院薬剤師会認定指導薬剤師。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年07月19日 更新)

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