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(中)肛門周囲膿瘍、痔瘻 チクバ病院・根津真司外科部長 細菌入りウミがたまる 暴飲暴食避け清潔保って

 ねづ・まさし 1986年高知医科大卒。同年岡山大第一外科学教室入局。高知県立中央病院、同県立宿毛病院、大原町国保病院を経て、94年からチクバ外科・胃腸科・肛門科病院勤務。50歳。

 肛門周囲膿瘍(のうよう)の多くは、肛門の近くにある肛門小窩(しょうか)(粘液を分泌する肛門腺が開口する所)から細菌が侵入して炎症を起こし、肛門周囲にウミのたまり(膿瘍)をつくる病気で、痔瘻(じろう)(アナ痔)の前段階と考えられます。

 痔瘻は肛門周囲膿瘍が膨れて広がり、肛門周囲の皮膚や直腸で自然に破れたり、排膿する(ウミを出す)ために肛門と肛門周囲の皮膚や直腸との間にトンネル(瘻管)を作った状態です=図1参照。

症状

 肛門周囲膿瘍になってウミがたまると、肛門や肛門周囲に痛み、腫れ、発赤(ほっせき)(赤くなる)、発熱(ひどい時は38度以上)などを起こします。痛みは、時に座ることができず、夜も眠れないほど強くなります。しかしながら肛門の奥の方に膿瘍ができると、発熱のみで腫れや発赤はなく、痛みもあまり強くないので、風邪かなと思われる場合もあります。

 腫れがひどくなってくると、肛門の周囲だけにとどまらず、臀部(でんぶ)や性器の周囲にまで及ぶこともあります。膿瘍が自然に、もしくは治療により十分に排膿されると、痛みは軽減し熱も下がります。

 痔瘻になりウミのトンネルができると、出口から排膿して下着が汚れます。出口がふさがって治ったかと思っていると、またウミがたまって破れ、ウミが出るということが繰り返される状態になります。

診断

 肛門周囲膿瘍や痔瘻の診断は、ほとんどが問診、視診、直腸肛門指診によって行われますが、深部に及んでいたり、複雑な場合にはCT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)、超音波、瘻孔(ろうこう)造影などの画像診断や、血液検査なども行われます。

 痔瘻は、できる場所によって次のように、いくつかの型に分けられます=表1参照。

 I、皮下または粘膜下痔瘻=肛門の粘膜下および皮下の浅い部位にできるもの。

 II、内・外括約筋間痔瘻=内括約筋と外括約筋の間にできるもので、最も頻度の高いタイプ。肛門側にできるものと直腸側にできるものがある。

 III、肛門挙筋下痔瘻=肛門挙筋の下で坐骨(ざこつ)と直腸の間にできるもの。

 IV、肛門挙筋上痔瘻=肛門挙筋の上にできるもので、まれ。

治療 

 肛門周囲膿瘍の治療は原則的にウミを外に出す切開排膿処置で、特に浅部の病変では切開排膿だけで寛解状態(炎症が落ち着いた状態)となり、根治手術が不要となることもあります。寛解状態に持ち込めなかったり、一時的に寛解に持ち込めても再発・再然を繰り返す場合には、根治手術が必要となります。

 痔瘻の根治手術は、トンネルのできた場所や型によって、ケースバイケースです=図2参照。

 基本的には瘻管の入り口から肛門側の組織を完全に開放、切除する方法(開放術式)です。しかし、この方法では、瘻管の深い場合や部位によっては肛門括約筋が傷ついて、痔瘻が治った後で肛門が引きつれたり、肛門の締まりが悪くなってしまうことがあります。そのため痔瘻のタイプによっては、括約筋をなるべく傷つけないようにしながら瘻管を切除する括約筋温存手術を行います。

 簡単な痔瘻を切り過ぎにならないように、また中途半端な手術で痔瘻を再発させないような専門的技術が要求されます。

 痔瘻の予防法としては特別なものはありませんが、肛門を清潔に保ち、アルコールの多飲や暴飲、暴食を避け、便通を整えるように普段から心がけたいものです。

 肛門周囲膿瘍や痔瘻がきちんと治療されずに放置していると、複雑な痔瘻となって治療に難渋したり、まれですが敗血症となって命にかかわる場合もあります。特に糖尿病などの基礎疾患のある人は注意が必要です。

 肛門の違和感や痛みを伴い、発熱などを認めたら、できるだけ早目に専門医を受診し、診察を受けられることをお勧めします。痔瘻の奥に重大な疾患(直腸がんや、若い人ではクローン病=原因不明の炎症性腸疾患で治療に難渋する=など)が隠れていることもあるからです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年04月04日 更新)

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