不整脈の最前線治療事情 カテーテル進歩で根治 岡山ハートクリニック・ハートリズムセンター長 山地博介氏に聞く
やまじ ひろすけ 1967年岡山県生まれ。医学博士。専門分野は不整脈、心房細動。92年、岡山大学医学部医学科卒業。岡山大医学部附属病院、三豊総合病院などに勤務。2004年から1年間、米クリーブランドクリニックに留学。その後、心臓病センター榊原病院の内科部長を経て、2009年から岡山ハートクリニック内科部長。カテーテルアブレーション治療が専門で、これまでに3000例以上の経験を持つ。
カテーテルを使った不整脈手術の風景
刺激伝導系の図
大半の不整脈は良性
―不整脈とはどんなものですか?
突然に 動悸 ( どうき ) がしたり脈が飛ぶ―このような脈の打ち方がうまくいかない状態を不整脈と言います。
不整脈には治療をしなくてもよい良性のものから、放置すれば脳 梗塞 ( こうそく ) や心不全を引き起こすような悪性のものまであります。最悪のものでは命まで危険にさらされます。
タイプは大きく3つに分けられます。脈が速くなるタイプと遅くなるタイプ、そして脈が飛ぶタイプです。患者さんは動悸と言われることが多いですね。
動悸以外の症状としては、意識が一瞬フッと薄れるような感じがあったり、体がだるくなる場合もあります。また、胸が痛いという人もいます。
―なぜ不整脈になるのでしょうか?
心臓自体に病気があって不整脈になる人もいますが、半分くらいの人は原因がありません。年をとると誰でも不整脈が増えてきますので、これは年齢的なものだとしか言えません。若い人で出る場合は、ストレスや睡眠不足、過労が原因の場合があります。人によってはお酒が入ると不整脈が出やすくなることもあります。
しかし、大半の不整脈は良性で、放っておいても害のない、治療のいらないものです。強い症状が出たからといって悪い不整脈とは限りません。逆に症状が弱いとか、自覚がないからといって良い不整脈というわけでもなく、このようなものの中にも放っておくと合併症につながるとか、それ自体で心臓が止まってしまうという悪性の不整脈があるんです。
心房細動に注意
―悪性の不整脈は何歳くらいから警戒するべきですか?
50歳を過ぎたら警戒したほうがいいでしょう。良性と悪性の不整脈の判別は難しいのですが、脈が飛ぶだけなら悪性のことはほとんどありません。しかし、異常を感じたら専門家に診察してもらうのが一番です。調べて原因が分かれば治療方針が決まります。
一方で原因がないなら、ほとんどの場合は心配のない良性の不整脈ということになります。
ただ原因がなくても年齢が上がると起こってくる不整脈の一種・心房細動には注意が必要です。規則性なくバラバラに脈が打つもので、これが長く続いたり、繰り返すことで心臓の中に血栓という血液の塊ができ、脳梗塞を起こしてしまうからです。脳梗塞になった人の3分の2くらいは、寝たきりになったり、介護がいるような状態になってしまいます。心房細動自体は命にはかかわらないけれども、それに伴う合併症で脳梗塞になると大きなダメージが残ってしまうんです。
―心房細動で注意する点はどんなところでしょう?
脳外科の医師と意見交換会をしたとき、「脳梗塞といえば裏に心房細動があると思ってもいいくらいだ」という方がいらっしゃいました。研究では心房細動が関係する脳梗塞は全体の3分の1程度だといわれていますが、実際にはもっと多いのではないかという印象のようです。
心房細動では死なないから別に治さなくてもいいという人もいますが、一生脳梗塞の危険性を背負って生きていくということは、その人の生活の質を大きく落としていると思います。
また、10%以下と言われていますが、心不全になる人や心臓の収縮が落ちてきたり、足が腫れる、胸に水が溜まるといった症状の出る方もいます
―不整脈を予防することはできるでしょうか?
残念ながら不整脈は予防できません。日ごろから検脈などを続け、自分の脈を管理するしかないんです。異常を感じたときにはすぐに医療機関に行って調べてもらいましょう。胸が痛いとか、意識が一瞬遠くなるような人は精密検査を受けた方がいいです。
早く診断がつけば薬で抑えられることもありますし、根治できる不整脈も多くなっています。予防はできないのですが、早期発見することで大きなダメージを受けることなく治せる可能性が高まります。
怖がる前に受診を
―不整脈の治療法にはどんなものがあるのでしょうか?
不整脈の起こるパターンは、心臓の脈動をコントロールするための正常な電気信号が出る場所・ 洞 ( どう ) 結節 ( けっせつ ) 以外から電気信号が出ている場合や、心臓の中に傷があってその周りで電気信号がくるくる旋回するような場合、ある決まった範囲から正しくない電気信号が出るものの3つくらいがあります。
一点から出てくるものであれば、その一点をカテーテルで熱を通して焼いてしまいます。電気信号が回るタイプでは、どこかをせき止めてやらなければなりません。心房細動などは電気信号があちこちから出てくるので、ある程度のエリアで治すやり方になります。脈が遅くなる場合には、通常はペースメーカーで対応します。
心室細動などでは病院に到着する前に患者さんが亡くなる場合もありますが、治そうと思えば大抵のものが治せる時代になったと思います。
―カテーテルによる治療技術が進歩したからということでしょうか。
安全にカテーテルで手術ができるようになったのも一因です。日帰りでの治療は難しいですが発作性の 頻拍 ( ひんぱく ) などであれば1泊2日で、ある程度の治療はできます。心房細動になりますと、3泊から4泊の入院が必要になります。
検査でもおおむね入院が必要になります。カテーテルをたくさん入れて検査をするため再出血の可能性が高いからです。
不整脈を誘発させてどこが悪いのか特定するため、アンテナを張らなければなりません。たくさん張れば張るほど高い精度で分かりますし、不整脈の原因となる電気信号をキャッチしやすいわけです。
―予防は難しいとのことですが気をつけるべきことはありますか?
規則正しい生活をすることと、体に悪いことはしないというのが一番です。たばこは百害あって一利なしですので、ぜひやめてください。
良性の不整脈であれば運動制限や生活制限は一切ありません。普段どおりの生活でいいという程度の不整脈が多いのも事実です。
しかし、一方では症状がなくても怖い不整脈というものもあります。むやみに怖がったり、勝手な判断で放置したりするのでなく、異常を感じたときは専門の医療機関を受診してください。きちんとした知識を持って、正しく迅速に対処すればこわい病気ではなくなっているのです。
1日1回は検脈を 24時間以内に異常発見
―普段から自分でできる不整脈の調べ方を教えてください。
おかしいなと感じた時や、普段の健康チェックとして検脈をお勧めします。手首の親指すぐ下のところに 橈骨 ( とうこつ ) 動脈という動脈がありますので、そこを人差し指と中指、薬指の3本で上からそっと押さえて、1分間に何回脈動しているかを計ります。おおよその目安として成人なら60回から80回程度でしょう。不整脈がなければ一定の間隔でちゃんと打っていて、それが自分の正常な脈です。
その間隔の間が空いていると、そこで飛んでいるということになりますし、突然速くなって1分間に140回とか150回に一気に速くなる場合は発作性の頻脈症ということになります。一定の間隔で脈動せず、バラバラに強かったり弱かったりする場合は心房細動を疑う必要があります。
何も異常がないときには不整脈は見つかりません。“現場”をつかまえなければいけないので、自分でおかしいと思ったときに脈をとるのが一番です。あわてずに、どういう脈が出たのかを把握しておけば、病院を受診したときには症状が治まっていても、かなり正しい診断をすることができます。
健康に不安がある人は20歳くらいの若い人でも検脈をしっかりとやってください。自分で不整脈を疑っている人は何歳であっても脈をとる習慣を付けた方がいいです。毎日決まった時間帯に脈を計りましょう。
心房細動は48時間以上続くと脳梗塞の危険性が増えるといわれています。毎日検脈していれば、異常が24時間以内に分かりますので、その時点で病院に来ていただければ、すぐに治療にかかれます。でも、気付かずに一週間とか十日、一カ月たって病院に来られても、すぐに治療に入れません。血栓に対する処置が必要だからです。心房細動の場合、早い対処は大きなメリットになるのです。
(2010年06月26日 更新)
タグ:
心臓・血管