文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 心臓病 負担少ないステント療法とは? 岡山ハートクリニック内科部長 村上正明氏に聞く

心臓病 負担少ないステント療法とは? 岡山ハートクリニック内科部長 村上正明氏に聞く

 むらかみ・まさあき 1965年広島県生まれ。医学博士。専門分野は狭心症、心筋梗塞、循環器一般。93年、愛媛大医学部医学科卒業。岡山大医学部附属病院、国立岩国病院などに勤務。その後、心臓病センター榊原病院の内科部長を経て、2009年から岡山ハートクリニック内科部長。心カテーテル治療が専門で、これまでに診断カテーテル約5000例、ステント留置術約3000例の経験を持つ。

カテーテル療法の様子

 心臓病で亡くなる人は年間17万9千人(2009年厚生労働省人口動態統計の年間推計)。死因としても2位で、特に気をつけなければならない病気の一つになっています。心臓病の多くを占めるのが心筋 梗塞 ( こうそく ) などの虚血性心疾患。食生活の欧米化や運動不足などによる生活習慣病が原因となるケースが増えているようです。心臓病の基礎知識や診断方法、予防法などを岡山市の岡山ハートクリニック内科部長・村上正明医師に伺いました。

 ―狭心症、心筋梗塞とはどのような病気なのでしょうか。

 心臓は1日に約10万回、休みなく拍動するポンプです。このポンプを動かすエネルギーとなる酸素や栄養は、心臓に冠のようにかぶさった血管・冠動脈から心臓を動かす筋肉・心筋に与えられます。年をとると、この冠動脈にコレステロールが 溜 ( た ) まって動脈硬化が進み、血液の流れが少なくなって心臓を動かす栄養が不足する「心筋虚血」になってしまいます。

 この状態になると、心臓のSOS信号として、痛みを感じるようになります。これが狭心症です。しかし、この症状は長くても15分以内に消えてしまいます。

 冠動脈がさらに狭くなり、完全にふさがって血液が流れないままになると、その部分の心筋細胞が 壊死 ( えし ) して、症状も長時間続くことになります。これが急性心筋梗塞です。

 虚血性心疾患と呼ばれる狭心症と心筋梗塞ですが、一番大きな違いは、狭心症では心筋のエネルギー不足が一時的なもので回復するのに対し、心筋梗塞は心筋が壊死しているので回復しません。早急な治療が必要です。

 心筋梗塞の症状は、胸に強い痛みや締め付け感が発生し、痛みのために恐怖感や不安感があります。ほとんどの場合は前胸部中央や胸全体が痛みますが、まれに首や背中、左腕、上腹部が痛む場合もあります。冷や汗や吐き気、おう吐、呼吸困難を伴うこともあります。

 ―狭心症の段階で気付くのは難しいのでしょうか。

 坂道で同年輩の人とか夫婦で歩いていてもついていけず、途中で休まなければならないのが唯一の症状というような人もいます。アパートで3階に上るのに、何度も休まないといけなくなった、などの症状も聞いています。「年をとったから体力が衰えた」と思っている人の中には、狭心症の人がいる可能性がありますね。問題は、年相応の体力の衰えだと思っているため、病院に行かない人が多いことです。

 一つの判断基準として、▽ハイキングや散歩で、ほとんど同じくらいの年齢の人と出かけているのについて行けない▽夫婦で散歩してどちらかがついて行けない―という状況になりましたら、狭心症の可能性があります。

 特に以前から血圧が高めだと言われている人、健康診断でコレステロールが高いといわれた人、糖尿病になる危険性があるといわれた人などでそういう症状があれば、まず疑うべきです。年だからと自分で納得してしまう前に、専門的な病院で検査を受けてください。

 心筋梗塞は、ちゃんと病院で治療すれば防げる病気なのですから、不安を抱えたまま何もしないのではなく、病院へ行って現状を把握、正しい対処法を実践してほしいですね。

 ―狭心症、心筋梗塞には、どのような治療法があるのでしょうか。

 20年くらい前まではTPAという血栓溶解剤を点滴で全身に入れていました。私が研修医をしていたころは、詰まっているところがあってもカテーテルを入れてTPAを流せば、大抵の場合は血液が再び通うようになっていました。そんなTPA時代を経て、カテーテルで血管の詰まった場所に風船を入れ、膨らませることで血管を広げて血液をきれいに流す風船療法の時代になりました。現在では風船で血管を広げた場所が再び血管が狭くならないよう、金属の網を入れるステント治療の全盛期になっています。

 今は10年くらい前に考え出された薬剤溶出ステントが主流です。風船治療の歴史は、今から30年ほど前に単純に狭いところを広げる、風船治療ができました。しかし、治療がうまくいっても3カ月もすれば半分くらいは元に戻るという問題があったため、20年前に風船に金属の網・ステントを巻きつけて血管の中に入れる治療法が考え出されました。この方法は90%以上の成功率を誇り、どんどん進化しています。

 半年以内にステントの中に肉が盛ってきて狭くなる人が2割から3割いるのですが、免疫抑制剤などをステントに塗って肉が盛らないようにしたものが薬剤溶出ステントで、95%は再び血管が狭くなることがありません。

 狭くなった血管の位置などの問題でステント療法が使えないとなると、バイパス手術をすることになります。バイパス手術も昔は心臓を止めて脚の静脈をとってきたりしていましたが、静脈だと耐久性に問題があり、今は動脈を使うようになっています。また患者の負担を減らすため、心臓を止めずに手術するなど優れた方法ができています。

 ただ以前よりステントで対応できる症状の幅が広がっています。優れた性能の薬剤溶出ステントができ、カテーテルも細くなってきています。かつては脚から太いカテーテルを入れて何日も入院する必要があった治療ですが、今では手首から細いカテーテルを入れて1泊2日で治療をおえて帰ることも可能なくらい入院期間が短くなっています。カテーテル検査だけなら日帰りできるほどに患者さんの負担は軽くなっています。

 さらに検査の分野では、CTによる検査が進歩し、カテーテル検査さえ必要なくなってきています。64列心臓血管CTという機器の開発で可能になった検査で、心臓のどこに狭くなった血管があるかをコンピューターの立体画像で鮮明に見ることができます。造影剤は手の静脈から注入するので危険性は少ないといわれています。検査時間も15分程度で、その日のうちに結果をお知らせすることができますし、精度もほぼカテーテル検査と同様の高さです。


予防が大切 40代になったら検査を

 ―心筋梗塞の直接の原因は動脈硬化がほとんどだと聞きました。


 冠動脈の血管壁に次第にコレステロールが溜まり、血管の壁が内側に突き出して血液の流れを妨害するようになります。この状態を 狭窄 ( きょうさく ) と表現します。こうなると、心臓を動かすのに必要な血液が足りなくなってきます。

 心筋梗塞の発作は、狭窄度でいうと中等度から軽度(50%以下の狭窄)から一気に進行して起こる場合が6割から7割です。だんだんと重い症状が出てくるわけではなく、突然起こる病気なのです。

 心筋梗塞になっても、専門病院ですぐに治療すれば9割以上は助かります。しかし、全員を助けられるわけではありません。治療しても助けられなかった人と、病院に到着するまでに亡くなってしまった人を合わせると、今でも2割くらいの人が命を落としているといわれています。

 また、治療しても大きな障害が残ります。予防することが大切なのです。そのためには3大危険因子を取り除くよう努めることが必要です。3大危険因子とは、高血圧、高脂血症、たばこです。これに糖尿病を加えることもあります。バランスの良い食事、適度な運動を心掛けましょう。また、精神的、肉体的にストレスがかかると、血液中のコレステロールが急上昇して、動脈硬化が進行しやすくなります。「焦らず、怒らない、明日できることは今日しない」の精神で、のんびりと着実な生活リズムをつくりましょう。

 ―狭心症、心筋梗塞で注意しなければならないことは。

 心筋梗塞の恐ろしい点は、死亡する可能性のある発作が突然発生するという点です。また、その原因となる動脈硬化は心臓で発生すれば、脳や内臓など全身のほかの部分でも発生している可能性が高いものです。

 われわれ医師は患者さんの治療に全力を尽くしますし、医療技術も進歩していますが、患者さん自身が自分の健康を大切にしてくれなければ、守れないものもあります。

 通常の健康診断では狭心症の発見はほぼ無理です。運動で心臓に一定の負荷をかけて心臓の筋肉の変化を観察する「負荷心電図」をとってみるのが一番簡単な狭心症の発見方法だと思います。ほかにも心エコーの検査も重要だと思います。

 このような検査で問題が分かり、高血圧やコレステロールが高い、たばこを吸うなどの条件が重なっている方は、一度専門の循環器の病院を受診してみてください。3大危険因子すべてが当てはまるという人は20、30代でも検査してほしいですし、40、50代で一つか二つ当てはまるのであれば、家族のためにも1回きちんと検査してはどうでしょうか。


狭心症、心筋梗塞の予防 バランス良い食事
適度な有酸素運動 「早寝早起き」大切


 3大危険因子を排除することが大切です。そのために生活習慣を見直してみましょう。

 食事は、魚中心の和食を心掛けましょう。動脈硬化には青魚に多く含まれるEPAという油がいいと知られています。

 EPAは、普通のサプリメントとしても売っていますし、良い薬も出ています。どうしても足りないと感じたときはそれらの使用を考えてもいいでしょうが、やはり魚を中心としたバランスの良い食事で、塩分控えめを心がけるのが理想です。

 体内の脂肪を燃やす有酸素運動も大事です。筋肉痛が起こるような運動は心臓病の恐れがあるような方にはあまり良くありません。また、脂肪を燃やす回路は複雑なので、ゆったりとした運動を長くしなければ働きません。30分から1時間くらい、エアロビクスやウオーキングなど軽い運動を毎日するのがベストです。無理な場合は1週間のうち4日以上を心掛けてみましょう。

 質の良い睡眠をしっかりとってください。十分な時間眠るのも大切なのですが、睡眠時無呼吸症候群の人には長く眠っても疲れがとれない、高血圧になる可能性が高まるなどの問題が発生します。検査するまで自分でも気付いておらず驚く人もいます。寝酒も影響が指摘されているので慎みましょう。メタボリック症候群との関係も近年注目されています。

 眠りをコントロールするのは難しいですが、「早寝早起き」は優れた習慣なので実践してみましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月22日 更新)

タグ: 心臓・血管

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ