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(21)呼吸器インターベンション 岡山赤十字病院 渡辺洋一副院長(60) 気管支鏡で肺がん診療 中四国トップの実績

「こうやって患者さんの口に入れていきます」。気管支鏡の一つ、硬性鏡を手にステント治療について説明する渡辺副院長。学会などを通じ、診療技術の普及も図っている

 近年の医療で普及が目覚ましいのが、内視鏡による治療。外科手術のように体を切開せずに済み、患者の負担が軽い。口、肛門から入れて胃や大腸、食道がんを切除する消化器の診療がトップランナーだが、呼吸器もしかりだ。

 「心肺機能が悪かったり、高齢で手術が難しい肺がんの患者さんも、早期なら内視鏡だけで治せることもある」。気管支鏡と呼ばれる呼吸器内視鏡を手にして30年近く。約1万例の診療に携わった渡辺は進歩を実感している。

 気管支鏡による診療の中でも、先端的な「呼吸器インターベンション」といわれる分野で、岡山赤十字病院は約500の症例を重ね、中四国の医療機関でトップの実績がある。呼吸器内科部長として、その先頭に立ってきた。岡山県内外の患者はもちろん、韓国やタイ、ギリシャなど海外からも医師が研修にやって来る。

 呼吸器インターベンションで代表的なのが、肺がんで狭くなった気管支を広げるステント治療。小型カメラのついた気管支鏡を口から入れていき、がんを焼き取った上でシリコン製のステント(チューブ)をはめて気道を確保する。

 「呼吸困難で窒息死の危険のあった患者さんが治療翌日にはベッドを離れられる。がんと付き合いながら、仕事に復帰した人もたくさんいますよ」

 延命効果だけではない。

 同病院で2009年までの12年間にステント治療を受け急場をしのいだ患者のうち、2割近い12人は、その後の抗がん剤や放射線治療でがんを克服し、ステントを抜くまでに回復している。

 気管支鏡は19世紀末にドイツの医師が筒状の硬性鏡を開発したのに始まった。1966年に国立がんセンターの故・池田茂人がファイバースコープ型で自在に操れる軟性鏡を編み出し、一気に広まった。渡辺は神戸市立西市民病院時代の82年、同センターに国内留学し、池田に師事した。

 「先生の座右の銘は『ネバー・ギブアップ』。その精神を徹底的にたたき込まれましてね」

 決して諦めない。それを発揮したのが、気管支や肺に開いた穴をふさぐ充填じゅうてん材の独自開発。幾度も困難に直面し乗り越えた。

 始まりは岡山赤十字病院に着任4年目の89年にさかのぼる。担当した敗血症患者に、気管支から腎臓への空気漏れが見つかり重体に陥った。気管支鏡で穴をふさぐ治療を試みたが、ゼラチンのりなど従来の充填材は強度不足でうまくいかない。考え抜いた末、歯科用のシリコンを使うことを思いつき、充填材を手作りして治療に成功した。

 その後も手作りの充填材で治療を重ね有効性を確認。製品化を国内の医療機器メーカーに働き掛けたが、「採算が取れない」と軒並み断られた。それでも諦めず、フランスの会社に掛け合い2000年、実現にこぎつけた。

 渡辺の頭文字を製品名に入れた充填材・EWSは今や、世界中の医療機関で、肺から空気がもれる気胸などの治療に使われている。その功績で04年、師の名前がついた日本呼吸器内視鏡学会の学会賞「池田賞」を受賞した。

 ただ、それでも治せない病気もある。特に、肺がんは患者の4人に3人が亡くなる「難治性がん」の代表だ。

 「だからこそ」と、渡辺は強調する。「治療だけでなく、痛みの緩和や治療費、社会生活までトータルに目を配るのが大切だ」と。

 その思いから病院に働き掛けて、07年に緩和ケア科、がん相談支援センターを開設した。さらに、計画中の新病棟建設に合わせ14年、がん患者らの緩和ケア病棟も完成する。一般病棟とは別の平屋の建物。岡山県内では初めての「独立型」の緩和ケア病棟だ。

 「併設だと例えばペットを入れられないなど、どうしても生活に制約があった。独立型は自由度が高く、最期まで住み慣れた自宅に近い暮らしを送れる」。患者の立場に立ち考える―。自身の心掛けを形にした施設ができるのを心待ちにしている。 (敬称略)


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 わたなべ・よういち 玉野高、鳥取大医学部卒。岡山大第2内科に入局し、同大病院、神戸市立西市民病院などを経て、1986年から岡山赤十字病院勤務。

 大学時代、男声合唱団に入り、今も作曲家三枝成彰さんが団長の「六本木男声合唱団」に所属。モナコ、キューバなど海外公演にも参加している。


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 呼吸器インターベンション 気管支鏡を使う中でも、特に先端的な診断、治療の総称。肺がんのレーザー焼灼しょうしゃく・凍結、気道狭窄きょうさくに対するステント留置、気管支や肺の穴をふさぐ充填術、組織を切り取って調べる生検、超音波検査などがある。硬性鏡を使うことが多い。


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 外来 渡辺副院長の外来(呼吸器内科)は火曜、金曜日の午前中。ほかに第1金曜日午後の「禁煙外来」と、第1、3金曜日夕方の「思春期禁煙外来」を担当。


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岡山赤十字病院

岡山市北区青江2の1の1

電話086―222―8811
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月04日 更新)

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