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(23)不整脈アブレーション 岡山ハートクリニック 山地博介ハートリズムセンター長(44) 心筋焼灼し電気回路修復 不安解消を第一に

測定機器はデジタル化され鮮明な立体画像も映し出されるが、アブレーションの成否は山地センター長の頭の中の地図と指先の感覚にかかっている

 8台連結の液晶マルチモニター。エックス線を照射する大きな「C」形のアーム。電極コードが縦横に張り巡らされている。山地はこの部屋で患者と向き合い、直径2ミリ程度の細いカテーテルを武器に不整脈と闘う。

 モニターに映写された心臓の3次元カラー画像には、一点から白い波のような信号がわきだし、くるりと心房を回転している。これがどきどきと不快な不整脈の正体だという。

 心臓は内部の特別な部位が発する電気信号で自ら収縮と拡張を制御する。極めて強靱きょうじんなポンプなのだが、1日10万回以上休みなく拍動を続けるうち、精密な電気回路に変調や故障を来すことがある。山地は異常の原因を突き止め、心筋を焼灼しょうしゃくするアブレーションによって回路を修復する。

 太もも付け根の静脈から挿入したカテーテルを、血管に沿って心臓へ進める。ほとんどが左心房で起こる心房細動の場合、右心側から心房中隔を貫通して届かせる。

 心臓の外壁を破ったりすると大変。超音波画像で位置を確かめていても、手に伝わる繊細な感覚が頼り。「心房細動も千例くらいやって慣れてはきた」と言うものの、血圧などをずっと見張っているので、いつも汗びっしょりになる。

 高校時代、テレビドラマの難病のヒロインに感情移入した山地は、「こんな患者を治せる医師になりたい」と一念発起して岡山大医学部へ進学。研修医になり、消化器内科で内視鏡を扱い始めたが、観察を中心とする診断法に興味を覚えることができずにいた。

 だが、心臓病センター榊原病院(岡山市北区丸の内)に移り、アブレーションに出会うと、まるで違う世界が広がっていた。カテーテルで刺激して意図的に不整脈を誘発し、心内電位を測定する。まだアナログ時代。猛烈な速さで流れる長尺の記録紙を即座に読み、異常部位を特定しなければならない。

 反応時間を測るディバイダーを手に必死に読んでも分からない。検査技師に「だれか分かる医者を呼んでください」と言われてカチンと来ても言い返せなかった。悔しさをバネに、専門書を買いあさり、成績を上げている医師を訪ねて手技の見学を請うた。

 分かってくると俄然がぜん面白くなった。パズルかクイズのように謎を解き、カテーテルに通電して2、3秒のうちに結果が出る。「焼く」と言ってもカテーテル先端は50〜60度なのだが、治療した部位が正解ならば、毎分200回くらいあった頻脈がすーっと60回の正常な脈に戻る。「やった」―心の中でガッツポーズする瞬間だ。

 しかし、治療を重ねていくと、山地は別のやりがいも感じるようになった。不整脈の患者はなかなか周囲に苦しみを理解してもらえず、死ぬんじゃないかと不安に駆られ、落ち込んでしまうことが多い。

 「不整脈は疲れやストレスと関係なく普通に生活していても出るし、いつ起こるか分からない。アブレーションがうまくいけば、薬を飲み続けることもなく、食事や運動の制限からも解放されるんです」。山地は患者の不安を取り除くことを第一に考えるようになった。

 加齢に伴って増える心房細動にもいち早く取り組んだ。直接命にかかわるケースは多くないが、血栓ができて脳に流れると脳梗塞を引き起こす。一生懸命働いてきた人のセカンドライフを台無しにしかねない。

 10年前に治療開始した当初は満足のいく成績を上げられなかったが、心臓病部門で世界トップレベルのクリーブランド・クリニック(米国オハイオ州)に1年間留学。スタッフに伍ごしてデータ解析し、自信をつけた。

 2年前、心臓病に取り組む同志の医師5人で岡山ハートクリニックを立ち上げ、心房細動を中心にアブレーションを任された。かつて6時間以上かかっていた手術も今は2時間前後でこなす。発作性なら初回で75%、2回やれば90%が治癒する。持続性でも初回で約6割、2回で8割は治せるようになった。

 「頑張ったら結果はついてきますよ」と励ました患者が治療後、「発作が出なくなってすごく楽になりました」と、見違えるような明るい顔で言ってくれるのが一番の喜びだ。 (敬称略)

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 やまじ・ひろすけ 倉敷天城高、岡山大医学部卒。三豊総合病院(香川県)などに勤務後、2004年にクリーブランド・クリニックに留学。心臓病センター榊原病院内科部長を経て、09年3月から岡山ハートクリニック内科部長。同9月からハートリズムセンター長兼任。学生時代に打ち込んだソフトテニスを再開し、院内同好会をつくっている。

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 外来 山地センター長の不整脈専門外来(予約制)は毎週火曜日午後。一般外来は水曜日午前と木曜日の午前・午後。

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岡山ハートクリニック

岡山市中区竹田54の1

電 話 086―271―8101

メール ohc@okayama−heart.com
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年08月01日 更新)

タグ: 心臓・血管

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