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(24)脳動脈瘤、脳腫瘍 大田記念病院(福山市) 大田慎三脳神経外科部長 中崎清之ガンマナイフ施設長 開頭せず負担軽く 患者ごとに最適治療実現

大田脳神経外科部長

中崎ガンマナイフ施設長

 「では始めましょう」。手術室に大田の声が響く。横たわるのは激しい頭痛を訴えて運ばれてきた患者。脳動脈瘤りゅう破裂によるくも膜下出血だった。初回発作で3割が亡くなるとされ、再出血すれば危険性はさらに増す。頭を開いて瘤の根元をクリップで留めるか、開頭せずにカテーテル(細い管)で瘤にコイルを詰めるか、早急な治療選択が求められる。今回の患者は開頭手術をするには瘤の位置が奥深く、後者に決まった。

 足の付け根の血管からカテーテルを頭まで挿入し、5ミリ大ほどの瘤に直径0・3ミリというプラチナコイルを充填じゅうてんしていく。「血管内治療は開頭しないので脳に触れない。負担も小さく、高齢者や全身状態が悪い患者にも適応できる」と大田。だが、下手をすれば逆に血管を傷つける。「だから0・1ミリ単位でコントロールしています」。さらりと語る言葉に術者としての自信がにじむ。

 備後地区における脳神経疾患の基幹病院・大田記念病院(福山市沖野上町)。手術中に撮影可能な術中MRI(磁気共鳴画像装置)をいち早く導入するなど先進医療機器を積極的に取り入れ、救急医療体制も充実。急性脳卒中の入院は国内有数の年間約1200例を数える。

 大田はそんな病院を支える中核の1人。脳動脈瘤に対する脳血管内治療は全国トップクラスで、昨年は80例(破裂28例、未破裂52例)を行った。脳梗塞なども含めればこれまでの治療実績は実に2000例を超える。習得は独力独学。脳血管内治療が従来の開頭手術と並ぶ新たな治療法として本格的に広がりだしたのは1990年代半ば。ちょうど医師として歩み始めた大田は挑戦を決意、試行錯誤しながらエキスパートへの階段を一段一段上ってきた。

 とはいえ、瘤の形状などによってはやはり開頭手術が適した場合も多い。「患者さんの状態や希望を踏まえ、どちらの治療もできる体制が重要です」。大田は開頭手術に関しても症例数は1000例の大台を突破している。

 一方、同じ脳神経外科医でも、中崎が手掛けるのはガンマナイフ治療という頭部専用の放射線治療。転移性がんの4分の1に起こるとされる脳転移に極めて効果が高く、良性腫瘍や脳動静脈奇形などもしばしば適応になる。

 ヘルメット様の装置に201個の線源があり、そこから発せられるガンマ線を病変に集中して狙い撃ちする。「虫めがねで日光を集めて紙を燃やすような仕組みです」と中崎。開頭手術が難しい脳深部や、高齢者や全身合併症の患者にも行える上、ガンマ線の一本一本は弱いため、周辺組織に影響を与えることもない。照射時間は対象の大きさや個数によっても異なるものの、おおむね1時間前後。「転移性脳腫瘍の場合、一般的に大きさは3センチまでとされますが、1カ月に3回程度に分割照射することで4・5センチぐらいまでは治療が可能になります」

 中崎は鹿児島県出身。九州大医学部を出たが、大学の医局人事に飽き足らず外の世界へ。「真っ先に頭に浮かんだのがこの病院でした」。面識のない当時の理事長にメールを送り、熱意が通じ採用された。2009年、病院に備後地区で唯一のガンマナイフを導入する際、わが国の第一人者、勝田病院水戸ガンマハウス(茨城県)の山本昌昭医師に師事。治療実績は350例超。

 中崎が気を配るのは治療後のフォローアップ。というのも、ガンマナイフ治療は通常、入院し翌日に治療、3日目に退院と短期間で済むが、治療効果がはっきりするまでには多くの症例で数カ月から数年を要する。いつ治療したか、治療後はどの病院に入院しているか、経過は…。地域の医療機関と連携し、定期的な患者情報の把握は欠かすことができない。

 ただ、ガンマナイフは全国に56台しかなく、適応や治療効果などその知識の浸透はまだ十分とは言い切れない。「治療はもちろん、治療に関する正しい情報を提供していくこともわれわれの務め。それが備後圏や瀬戸内圏の医療の質向上にもつながるはず」

 治療の選択肢を確保し、一人一人の患者に最適な医療を実現する―。それが二人に共通する思いだ。 (敬称略)

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 おおた・しんぞう 1995年、岡山大医学部卒。同年8月から父の浩右氏が創設した脳神経センター大田記念病院に勤め、2005年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医。

 趣味はスキー、スノーボード、学生時代から続けるボートは今もチームを組んで地元の大会に出場する。


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 なかざき・きよし 2000年、九州大医学部卒。佐賀県立病院好生館、北九州市立医療センターなどを経て、06年から脳神経センター大田記念病院勤務。09年から現職。日本脳神経外科学会専門医。

 歴史好き。尊敬する人物は郷土が誇る偉人の一人で、無私の精神で近代日本の礎を築いた元勲・大久保利通。


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 脳血管内治療 カテーテルを使い、頭を切開することなく血管の中から疾患を治療する方法。血管の壁が薄く、血液が流れ込んで膨らんだ脳動脈瘤をプラチナコイルで埋めて破裂・出血を防ぐ▽動脈硬化で狭くなった頸(けい)動脈にステント(網状の筒)を入れて血流を改善させる―など多岐にわたる。


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 外来 大田部長は月、金曜日の午前。中崎施設長のガンマナイフ外来は水、金曜日の午後(午前は通常外来)と土曜日の午前。


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脳神経センター大田記念病院

福山市沖野上町3の6の28

電話084―931―8650

ガンマナイフ専用電話084―926―3515
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月05日 更新)

タグ: 脳・神経脳卒中

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