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認知症「地域で医療福祉連携を」 認知症の人と家族の会県支部 妻井代表に聞く

「自分も将来認知症になりうる、という当事者意識が必要」と訴える妻井代表

 高齢化の進展で認知症にかかる人が増え、地域で患者と家族を支える仕組みづくりが急がれている。「認知症の人と家族の会県支部」の妻井令三代表(74)に、患者や家族を取り巻く現状と課題を聞いた。21日は世界アルツハイマーデー。

 ―認知症をめぐる社会、医療福祉の環境はどう変化してきたか。

 先進国のうち、北欧諸国では1980年代から高齢者ケアの焦点を認知症に当てたが、日本では長らく脳卒中などによる寝たきり対策が主だった。2004年に「痴呆ちほう」から病名が変更されて以降、国レベルでの啓発が活発化し、本人や周囲が病気を隠そうとする雰囲気は薄れてきた。

 治療薬は99年に1種、今年に入って新たに3種が発売され、早期治療により進行を抑制できる可能性も高まった。入所施設は個室を設け、少人数単位で介護するユニットケアが増えるなど、患者の尊厳を守る環境整備も少しずつ進んでいる。

 ―県支部の活動状況は。

 設立から13年がたち、会員は300人に増えた。当初は家族が悩みを語ってストレスを発散する場だったが、介護経験の長い人や患者自身が参加、助言できるようになった。月1回の会報発行、岡山、倉敷市、井笠地域で毎月開く「集い」、電話相談などで情報交換している。介護者は悩みを抱えて孤立しがちなので、なるべく早く相談してほしい。

 ―活動の中で、どのようなメッセージを社会に発しているのか。

 私自身も重症の母を3年間介護し、叱るばかりしていた苦い経験がある。老人保健施設に入所し、スタッフから生活上の役割を与えられた母が生き生きしたのに驚いた。「認知症患者は何も分からないのではなく、できなくなったことを手助けすれば、十分人間らしく生きられる」と訴えている。

 また、患者本人の話から、認知症の人は病気に関する自覚がない―という従来の常識が崩れている。病期の兆候に自分で気付き、早期治療することが有効、とも分かってきた。

 ―8月末に県や市町村へ要望書を提出した。

 かかりつけ医の研修などを通して早期診断が可能な医療体制を地域に整え、患者や家族の生活を支える福祉にスムーズにつなぐことが第一。このため、民間委託される例が多い地域包括支援センターを自治体が直営し、支援スタッフを充実させるよう求めた。特別養護老人ホームの整備、新薬の効果や副作用の情報伝達、成年後見制度の活用も課題だ。

 ―地域で患者と家族を支えるために必要なことは。

 老老介護や独居のケースが増え、経済的問題で施設に入れない人も多い。行政が患者のもとへ出向いて支援することに加え、周囲の住民の見守りも不可欠。誰もが「将来、自分も患者になるかもしれない」という当事者意識を持ってほしい。認知症患者は対人コミュニケーションが難しいため、家族や地域住民との関係が悪化することもある。患者の「面倒を見てあげる」のではなく、「ともに生きる」という考え方が求められる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月20日 更新)

タグ: 脳・神経

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