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岡山済生会総合病院と岡山大 連携し医療充実を 大原利憲院長と森田潔学長対談

がん治療やへき地医療などについて意見を交わす大原利憲院長(右)と森田潔学長=岡山済生会総合病院

 おおはら・としのり 1971年、岡山大医学部卒。岡山済生会総合病院、済生会今治病院に勤務後、同大助手。82年に同総合病院外科医長となり、副院長などを経て昨年4月から現職。専門は呼吸器・消化器外科。64歳

 もりた・きよし 1974年、岡山大医学部卒。2002年に同大大学院医歯学総合研究科教授。05年から同大医学部・歯学部付属病院(現同大病院)院長を務め、今年4月から現職。専門は麻酔・蘇生学。61歳

岡山県を代表する急性期基幹病院の一つで、がん治療やへき地医療などに力を入れている岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)。岡山大医学部(同鹿田町)との関係が深く、人事や研究などの連携も進んでいる。大原利憲院長と同大(同津島中)の森田潔学長が地域医療の現状や今後の連携などについて話しあった。(本文敬称略)


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第一線病院
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“済生の心”変わらず(大原院長)


 森田 岡山の医療のこれまでを振り返ってみると、済生会総合病院は川崎病院(同中山下)と並んで、戦後古くから救急患者を積極的に受け入れてこられました。

 大原 そうです。そもそも社会福祉法人恩賜財団済生会は1911年に明治天皇の「済生勅語」とご下賜金を基に創立され、100年もの間、弱者救済を目的に歩んできました。その支部である岡山県済生会は31年に誕生し、38年に診療所を開設、48年に病院となりましたが、あらゆる人々に手をさしのべるという“済生の心”を守る姿勢は変わっておりません。

 森田 岡山大から済生会総合病院に出て、再び大学に戻って来られた先生方はよく「済生会の医師はよその病院にはないほど献身的に働く」と言われますが、そういった経緯もあるのでしょう。

 大原 看護師なども含め、人材を育成するにあたっては、優しい心や高い理想を持った人を育てるという点が大切だと思っています。

 森田 その後、高度成長期になって手術数が飛躍的に増えていく中、岡山大から麻酔科医を派遣するなど、済生会総合病院と岡山大の結びつきは非常に強くなっていきます。今では岡山大病院にとって全国に約250ある関連病院の中でも最も関係深い、第一線の病院と言えるのではないでしょうか。

 大原 本当にそう思います。治療面での連携はもちろん、人事交流も多く、大学で先端医療や研究を手掛けていた医師が、当院でそれらを一般的医療に適した治療法として精度を高めていく。あるいは、当院の医師が岡山大大学院で医学研究を行い、博士号を取得するなど、臨床の現場とアカデミックな世界の両方を体験した後に、当院なり大学に戻るというケースも少なくありません。

 森田 バランスの取れた医師の育成には望ましいことです。地域のためのみならず、岡山大にとっても済生会総合病院が果たす役割の大きさをあらためて感じます。私自身も岡山大医学部を卒業した後、そちらでお世話になりました。今でも当時の手術室の様子を覚えていますよ。


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救急医療体制
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実践教育 時代の要請(森田学長)


 大原 岡山大病院が中四国の基幹病院として重篤な患者を受け入れる3次救急を担い、地域医療の“最後の砦とりで”としての役割を果たすことは非常に重要です。ただ、岡山大は岡山市と「岡山総合医療センター(仮称)」を整備して対応しようとされています。センターができることで現在の救急医療体制をどうしていけばいいのか、市中病院であり、3次救急を補完する当院としてはいささかの危惧を抱いています。

 森田 構想では、センターには24時間あらゆる患者を受け入れるER(救急外来)などが設けられ、15年度の開設を目指しています。岡山大からはERに医師を派遣することにしていますが、近隣の医療関係者からは同じようなご懸念をいただいています。

 大原 当院の救急はおなかの関係や内科、整形外科が多く、幅広い患者さんが来られますが、脳や心臓は別の専門の医療機関とも連携を行っており、現在は市内の医療機関である程度、救急医療の棲すみ分けができています。ER構想を打ち出す前に、まず岡山市の救急医療体制をどうするのかという議論があってしかるべきだったというのが、私の率直な意見です。

 森田 救急医療に関する実践教育は時代の要請ですが、今の岡山大にはそういう場がありません。だからといって大学が本来の使命でない1次救急・2次救急をやるのは不可能ですので、一緒に協力してくれるところを探していたというのも実情です。ご理解ください。

 大原 それはそれで理解はしますが、やはり他の医療機関とのコンセンサスを得ることが必要ではないでしょうか。いずれにしても当院としては、各医療機関と基本的には協調を図り、分野別に棲み分けを行いながら、当院の果たすべき役割と得意な分野を生かせる救急医療体制を構築していくつもりです。


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がん治療
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基幹病院の手術増対応(森田学長)


 大原 当院の年間手術件数は現在、6000〜7000件を数え、全国に80ある済生会病院の中でも有数です。

 森田 岡山大病院は岡山県におけるがん診療の中核的役割を担う「県がん診療連携拠点病院」ですが、各地域の中核となる「地域がん診療連携拠点病院」に県内で最初に指定されたのは済生会総合病院でした。がんをはじめ、特に胃や大腸、肝胆膵(すい)といったおなか系の疾患には定評がありますね。経済界の人たちと話をしていると、おなかの病気を抱えている人の多くは済生会に行ったと言う。「なぜ岡山大病院に来てくれないのか」と苦笑させられます。

 大原 日本人の2人に1人がかかり、3人に1人が亡くなるがんは、わが国の医療として最も取り組まなければならないテーマですので、臨床の現場で岡山のがん治療センターとなるよう広く体制づくりを進めてきました。現在、当院だけで県内のがん患者の3割近くを受け持っています。ほかの疾患も含め、手術件数は増加傾向にありますので、患者さんのニーズに対応するためにも、今後、施設を整備し手術室や放射線治療室などを充実させる方針です。

 森田 岡山大病院も手術室を増やそうと、2013年の本格稼働を目指して新中央診療棟を建設しています。今後の大きな流れとしては、患者さんが小さな病院で手術をすることは減り、われわれのような基幹病院で手術をするケースがますます増えるのではないでしょうか。その流れに対応できるようにしなければいけません。

 大原 マンパワーの面でも強化が求められます。例えば、当院の内視鏡治療は消化器系を中心に年間約1万2000件にのぼり、増加傾向にありますが、全国的に専門性の高い医師はまだまだ少なく、確保が大変なのが現状です。

 森田 近年の先進医療は高度化が進み、専門化・細分化する傾向にあります。そんな中、大学の教室で教えていることと医療現場で実際に取り組むこととの間で“ひずみ”も生まれていますので、大学としてはこれをもう少し修正していかなければと考えています。

 大原 当院のがん治療のもう一つの特徴としては、緩和ケアがあります。10年以上前から取り組んでおり、岡山の緩和医療をリードしてきました。ここ数年、緩和ケアを希望する若い看護師も増え、その重要性が認知されているのを感じます。


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へき地医療
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巡回診療船を継続運行(大原院長)



 森田 済生会と言えば、巡回診療船の「済生丸」があります。瀬戸内海の島嶼(とうしょ)部に暮らす医療に恵まれない人々が安心できるよう、運航されています。

 大原 済生会創立50周年を記念し、1962年に導入されました。現在使用されている船は3代目になります。早くから予防医学の考えを取り入れて診療活動を行ってきました。

 森田 廃止が取りざたされたこともありましたが。

 大原 過疎化と高齢化が進み、必要度は増しておりますが、年間約1億2000万円かかる運営費問題などもあり、昨年、東京の法人本部内で存廃が議論されました。しかし、岡山県をはじめ地域の要望もあって、岡山・広島・香川・愛媛県済生会の共同事業として今後とも継続運航することになりました。

 森田 そうですか。

 大原 費用など多くの難題がありますが、早く新しい4世号を建造し、4県各済生会で連携をとりながら取り組んでいくつもりです。岡山大をはじめ、医療従事者の地域医療の研修や、阪神・淡路大震災のときに出動した経験を生かし、災害時の出動も考慮して計画を進めています。将来は国際協力を視野に入れた社会貢献も行えるかもしれません。

 森田 新たな研修医制度を背景にした大学医局制度の見直しに伴い、医師不足に悩む岡山県北部を対象に県が設けた医師派遣事業で、初の派遣医となったのも済生会総合病院の医師でした。

 大原 早急に援助をしなければ医療が立ちゆかなくなる地域が増加していくことは確実です。当院は、岡山赤十字病院(岡山市北区青江)とともに地域医療に従事する医師を養成する自治医科大卒業生の臨床研修指定病院でもあり、県内のへき地医療を担う人材の育成に力を入れています。

 森田 岡山大でも現在、奨学金返済を免除する代わりに、将来は医師不足の地域で働いてもらう「地域枠」制度を導入し、医学部生を育てています。

 大原 当院としてもこれまで培ってきたノウハウを活用し、今後も継続的に人材を育成して、へき地医療の充実を図っていくつもりです。

 森田 こういったへき地医療に関してもそうですが、国立大だった岡山大は県との連携が薄く、県の医療行政と大学の持てる力がうまくかみ合っていない面があります。自治医科大ともあまり関係がありません。もう少しお互いにうまくマッチングすれば、岡山の医療充実により貢献できるのではないかと考えています。

 大原 今後ともそれぞれの得意分野を生かしながら、うまく連携して地域医療の充実に向けて取り組んでいかなければなりません。

 森田 その通りです。医療を必要とされる患者さんのために頑張りましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月23日 更新)

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