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患者と医療者 「ずれ」の要因は? 岡山大大学院・内富教授に聞く

 うちとみ・ようすけ 広島大医学部卒。国立呉病院・中国地方がんセンター、米留学などを経て1995年、国立がんセンター勤務。東病院(千葉県柏市)臨床開発センター精神腫瘍学開発部長から2010年に現職。著書に、エッセイスト岸本葉子さんとの対談「がんと心」(晶文社)など。52歳。

昨年1〜6月に連載した「安心のゆくえ 地域発医療再考」

 26日、第30回ファイザー医学記事賞優秀賞を受賞した本紙連載「安心のゆくえ 地域発医療再考」。テーマの一つは、主治医の治療方針に納得できず医療機関を転々とする「がん難民」に象徴される、患者と医療者の「ずれ」の問題だった。原因はどこにあり、どうすれば埋められるのか。がん患者の心のケアが専門の内富庸介・岡山大大学院教授(精神科神経科)にあらためて聞いた。

 「患者は医師を前にすると遠慮して質問できなかったり、何を聞いていいか分からなくなる。一方、医師は一人一人の患者がどんな生活をしてきて、何を望んでいるかを知る余裕、考えがない」。多くのがん患者と接してきた内富教授は、ずれの大きな要因が意思疎通の乏しさにあると考えている。

 さらに、インターネットで医療情報が氾濫するなど近年、患者を取り巻く環境が様変わりした。特に「患者の権利」が強調され、かつての「医師任せ」の医療は通らなくなった。ただ、「あまり行き過ぎると、『全部情報をあげるから自分で治療を決めなさい』と、患者は投げ出された感じになる」と警鐘を鳴らす。

 「医療には患者と医療者のパートナーシップでできる部分と、医師にしかできない部分がある。ほどほどのパターナリズム(家父長主義)は必要。医師は『この治療の選択肢の中ではこれが良いと思いますよ』というあたりまで、半歩踏み込んでほしい」。そのためには患者の考え方や生活、治療に対する希望を把握しておくことがやはり欠かせない。

 内富教授は1999年から、所属する日本サイコオンコロジー(精神腫瘍しゅよう学)学会で、がん医療に携わる医師のコミュニケーション技術研修会を全国で重ねている。2日間で計10時間のロールプレー(模擬演習)を通じ、診察室で患者とどう向き合うかを学ぶ。岡山県内では初めての研修会を11月、岡山市で開く。

 がん対策基本法施行を受け厚生労働省の委託事業となった2007年から4年間だけで、約400人の医師が参加。研修内容を3時間に圧縮した「入門編」の参加者は2万人を超えた。

 一方、患者側にも医療者と信頼関係を築く機運は芽生えている。岡山での研修会には、連載で紹介した「NPO法人響き合いネットワーク・岡山SP研究会」が協力し、模擬患者を務める。

 ただ、「希望は見えつつあるが、医師にとって患者との対人関係を築く能力を身につけるのは最初の数年間、30代半ばまでには固まってしまい、なかなか変わらないもの。コミュニケーションを促すには診療報酬などのインセンティブ(誘因)も必要」。内富教授は指摘する。

 医師にとって「がん告知」以上に難しいのが、再発や積極的な治療の中止など悪い知らせを患者にどう伝えるか。内富教授が日米のがんセンターで患者を調査した結果、米国では「できるだけ多くの情報を伝えてほしい」という考えが主流だったのに対し、日本では情報より気持ちをやわらげる「情緒的サポート」を求める患者が多かった。

 「ずれに懸け橋をかけるには、患者にがんの経過とそれに伴う心の軌跡を知ってもらい、医師は終末期に患者が何を望むか個別のニーズを知ること。特に情の部分をいかに受け止めるかが課題です」



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「安心のゆくえ 地域発医療再考」は

山陽新聞社のホームページ

「岡山医療ガイド」でご覧になれます。

アドレスは
http://iryo.sanyo.oni.co.jp/rensai/d/c2010031716070345

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※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月27日 更新)

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