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(下)徐脈性不整脈 岡山ハートクリニック 川村比呂志内科部長

 かわむら・ひろし 岡山高、岡山大医学部卒。岡山大学病院麻酔科蘇生科を経て第一内科で研修。2009年3月から岡山ハートクリニック勤務

 心臓が1分間に拍動する回数を心拍数と言います。一般的には50回から100回の間が正常と言われていますが、心拍数が40回程度しかなくても何の問題もない人もいます。

 しかし健康な生活ができないほど心拍数が減少している場合を徐脈性不整脈と言います。

 徐脈になると脳に流れる血液量が少なくなり、ふらつきや失神を来すことがあります。そのような明らかな症状がなくとも心機能が低下することがあります。

徐脈の機序(仕組み) 

 心臓は収縮と拡張を繰り返しポンプとして働きますが、その調和の取れた動きは電気信号によって調整されています。こうした心臓内部の電気信号の通り道を刺激伝導系と言います。洞結節から発せられた電気信号は房室結節を経由して心室に流れていきますが、この電気信号が滞ることによって徐脈性不整脈が起こります。

 電気信号が滞る箇所によって、徐脈性不整脈は大きく次の二つに分類されます。

 (1)洞不全症候群

 洞結節の機能低下により、電気信号を作り出す間隔がゆっくりになった状態です=図1参照。

 (2)房室ブロック

 洞結節は通常の速さで電気信号を作り出しますが、電気信号の中継点である房室結節が電気信号を通しにくくなり、結果的に徐脈になった状態です=図2参照。

 徐脈性不整脈を起こす原因には、薬剤性、甲状腺機能低下症、電解質異常(脱水や腎機能障害等)などがあり、原因が分かればその原因を取り除く治療で徐脈は治ります。しかし明らかな原因がない場合も多く、その場合は通常ペースメーカー治療を要します。

ペースメーカー治療 

 ペースメーカーは設定された適切な速さで心臓に電気刺激を送り、正常な心拍数に保ってくれます。通常は鎖骨の下にビスケットくらいの大きさの器械を植え込みます。さらにリードと呼ばれる電線を心房や心室に挿入しペースメーカーからの電気刺激を心臓に伝えます=図3参照。

 施設によっても違いますが、局所麻酔で手術を行い手術時間は1時間弱です。入院期間は1週間程度ですが、場合によっては手術の翌日に退院することも可能です。術後は数カ月ごとに受診していただき、電池残量や作動状況の確認を行います。電池寿命は5年から10年程度であり、電池残量が低下してくると本体交換手術が必要になります。

 ペースメーカー治療を行うとデメリット(悪い点)もあります。MRI(磁気共鳴画像装置)による検査は受けられなくなります。またIH式電磁調理器に近づきすぎるとペースメーカーが誤作動する可能性があり、植え込み部位をIH式電磁調理器に近づけすぎないようにする必要があります。なお携帯電話はペースメーカーから22センチ以上離せば問題なく使用できます。

 心臓に電気信号を送り心筋を収縮させることをペーシングと言います。ペースメーカーは徐脈を治療するための器械であり心臓をペーシングするためにあるのですが、右室をペーシングすることによって心機能が悪化したり、不整脈の一つである心房細動の発症率が高くなるという報告もあります。

 そのため最近ではできるだけ右室ペーシングをしない機能を持ったペースメーカーもあります。さらにある種の不整脈を予防したり治療したりする機能を持ったり、電話回線を用いてペースメーカーのデータを医療機関に送る機能を持つ機種もあり、患者さんの病状に合わせてペースメーカーの機種を選ぶことが重要です。

 心拍数がゆっくりであるだけですぐにペースメーカー手術の適応があるとは限りませんが、症状が出現するほどの徐脈の方は早めの治療が必要です。徐脈があり、目まいやふらつきがある方はぜひ専門医を受診してください。



 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、電話086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年10月17日 更新)

タグ: 心臓・血管

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