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肺がん (倉敷中央病院) 手術 体への負担少ない 胸腔鏡手術が8割

肺がんの胸腔鏡手術。モニター映像を見ながら行われる=倉敷中央病院提供

 2010年、倉敷中央病院呼吸器外科の原発性肺がん手術数は214例(80歳以上が33例)だった。うち82%に当たる176例に胸腔鏡(きょうくうきょう)手術を行った。内視鏡の一種である胸腔鏡を使う手術。胸を大きく切る開胸手術に比べて患者の体の負担は少ない。奥村典仁・呼吸器外科主任部長が同病院に赴任した01年から行っている=グラフ上参照

 胸腔鏡手術は、基本的には術前にリンパ節転移がないと診断された非小細胞肺がんのIA、IB期が対象になる。施設により方法は異なるが、同病院では胸の3カ所に穴を開け(約3センチ大が1カ所、約1・5~2センチ大が2カ所)、胸腔鏡と手術器具を挿入しモニター映像を見ながらがんを切除、約3センチ大の穴から取り出す。早ければ2時間半で手術は終わる。

 体に負担の少ない胸腔鏡手術を取り入れたことで同病院での肺がん手術後の平均在院日数は減り、10年は6・3日だった=グラフ下参照。また平均在院日数の少なさは、呼吸器外科での手術後の合併症が少ないことも意味する。

 胸腔鏡のモニター映像だけ見て行う手術を「完全鏡視下手術」というが、奥村主任部長は「完全鏡視下にはあまりこだわりません」と語る。完全鏡視下の施術もあるが、約3センチ大の小さな穴でもそこから中を直視した方が安全性が高い場合もあるという。「がんを確実に摘出する根治性と安全性を十分確保できた上での胸腔鏡手術です。手術のクオリティー(質)を落としては本末転倒」と奥村主任部長。胸腔鏡手術中の迅速病理診断でリンパ節転移が分かった場合は、小さな穴を7~8センチまで切り開き、病期II期レベルの手術に切り替える。

 肺がん手術の対象を非小細胞肺がんの病期IIB期までとしている施設も多いが、倉敷中央病院ではがんがさらに進行しているIIIA期、IIIB期にも行う。大血管や胸壁、横隔膜などへ広がっている「局所進行肺がん」が対象だ。呼吸器内科や放射線科と協力、あらかじめ抗がん剤や放射線療法でがんを縮小させる「導入療法」を行い、その上で開胸手術で切除。肺以外の隣接臓器もいっしょに取り除き、場合によっては心臓血管外科の協力を得て大血管の再建も行う。「拡大手術」と呼ばれる。

 「もちろん患者さんには危険な手術であることを十分に説明し、同意を得た上で行います」と奥村主任部長。大血管の上大静脈・肺動脈にがんが広がり、病期IIIB期と診断され拡大手術を受けた60歳代男性は、元気に社会復帰し、術後1年半が経過したが再発はないという。

 高齢者も多く手術しているので、各種の並存症を持った患者も多い。中でも間質性肺炎を合併した患者は手術の危険性が極めて高いとされるが、呼吸器外科はこれに対しても積極的に取り組み、09年4月から独自の手術対策を講じて以後、急性憎悪(間質性肺炎が急激に悪化すること)は1例もないという。

 同病院の肺がん切除後の5年生存率(対象504例、2000年~04年に手術)は、IA期89・2%、IB期77・3%、IIA期76・2%、IIB期51%、IIIA期40・8%、IIIB期46・5%、IV期25%―となっている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年12月05日 更新)

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