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スリランカで指導続け普及支援 肺移植成功 岡山大病院・大藤チーフに聞く

大藤剛宏・肺移植チーフ

患者の術後管理に当たる岡山大病院肺移植チーム=スリランカ・コロンボ市内

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)肺移植チームは11月下旬、重い肺の疾患に苦しむスリランカの60代男性への脳死肺移植を成功させた。スリランカ大使館からの依頼で、同国で初めて行われた肺移植。コロンボ市内の病院で執刀した大藤剛宏・肺移植チーフに手術の様子や意義、今後の支援などについて聞いた。

 ―スリランカ初の肺移植を11月30日(現地時間)に無事成功させた。今の心境は。

 「患者は肺に炎症が起きて呼吸が困難になる特発性間質性肺炎を患い、1日の半分ほどは人工呼吸器を装着。一刻を争う状況だった。大使館から依頼された手術であり、岡山大病院だけでなく、日本の『移植医療』の看板を背負った仕事だった。患者は術後すぐに移植した肺で呼吸を始めており、回復も標準より1週間ほど早い。早ければ2012年1月下旬にも退院できるのではないか。大きな責任を果たせ、安堵(あんど)している」

 ―当初予定していた生体移植から急きょ、脳死移植に変更された。

 「健常者のドナー(臓器提供者)2人の肺下部を切り取って移す生体移植の準備を進めていた最中、脳死ドナーが現れた。スリランカでは既に脳死肝、腎移植が行われており、脳死への切り替えは想定内。脳死判定もきちんと2回行われ、同国の医療水準の高さがうかがえた」

 ―手術時間は11時間と順調だった。

 「11月上旬に一度、現地を訪れて手術室などを視察し、準備は万全だった。手術本番も麻酔から執刀までわれわれの肺移植チームが主導したため、大きな違和感もなくスムーズに進めることができた」

 ―今回の手術はスリランカの移植医療発展に向け、教育的な意義もあった。

 「チームに課せられた使命は患者の救命と、スリランカに肺移植を根付かせるきっかけづくりの二つだった。手術には同国の胸部外科医ら4人が参加。初の肺移植ということもあり、見学者は多い時には50人に上り、手術室を埋め尽くした。多くの医療関係者に肺移植の現場を肌で感じてもらえた意義は大きい」

 ―今後の協力体制は。

 「現地で術後管理に当たっている岡山大病院の集中治療医と交代するためスリランカへ再度渡航し、拒絶反応を起こさないよう免疫抑制などの管理に当たる。滞在中、同国に肺移植を普及させるプロジェクト立ち上げの話し合いを行う。同国の医療界には経験を積みながら進歩する『ラーニングカーブ』の考え方が浸透。新しい医療への挑戦で起こった失敗にも寛容な文化があり、この方式で肺移植を進歩させていくだろう。今後も数回、同国を訪れ、手術の指導や監督に当たり、肺移植普及の手助けをしたい」

 おおとう・たかひろ 岡山大医学部卒業後、同学部第二外科入局。香川県立中央病院などを経て、1998年から岡山大医学部第二外科。肺移植の技術を学ぶため、2002年から豪州に留学。07年に帰国し、岡山大病院呼吸器外科助教、講師を経て、11年4月から同准教授。福山市出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年12月18日 更新)

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