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(32)心臓カテーテル・ステント療法 岡山ハートクリニック 村上正明内科部長(46) 金属の網で血流を確保 薬剤溶出で再狭窄防ぐ

「活力の源? 患者さんが元気に退院してくれることです」と笑う村上内科部長。日々、気持ちを新たにして治療に当たると言う

 心臓に張り付いた冠動脈は、血液ポンプの心臓自身に酸素や栄養分を送るライフラインである。

 動脈硬化で冠動脈が狭まれば供給不足となり、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことがある。この虚血性心疾患の患者を救う村上の武器が、直径約2ミリの管カテーテルと微小なステント(金網状の筒)だ。

 治療は、壁面が崩れて通行が難しいトンネルの復旧を思わせる。

 カテーテルを手首の血管から70〜80センチ向こうの患部に挿入する。先端の風船を膨らませることで狭くなった血管を押し広げるのと同時に、その膨らみに合わせて開いたステントを固定。十分な量の血流を得る―。こんな仕組みだ。

 別の血管を使い患部の回り道を作るバイパス手術に比べて、患者の体に大きな負担がかからない。村上のクリニックでは、患者は治療当日に入院。麻酔は手首だけで済み、標準的な治療時間は20〜30分と短い。狭心症なら翌日、心筋梗塞の場合は心臓リハビリを行って1〜2週間後に退院となる。

 カテーテル検査歴約5千例、ステント療法歴約3千例。「経験数は岡山県内で5指に入る」と言う村上がカテーテルの世界に出会ったのは、1990年代前半にさかのぼる。愛媛大医学部卒業後に入った岡山大第1内科から派遣された国立岩国病院(現国立病院機構岩国医療センター)で、だった。

 カテーテル先端の風船の力で患部を広げただけの手法から、ステントの利用が広まろうとしていた時代。「心臓の止まりかけた患者が一発で元気になり退院していく」。こんな姿にすぐに魅了された。医師育成は手取り足取りではなかった当時のこと。技を学ぶには先輩に目をかけてもらわなくてはと、患者の止血や治療室の掃除といった下積みを熱心に重ねた。

 災害医療の最前線にも立った。95年1月の阪神大震災では、勤務先の西宮渡辺病院(兵庫県西宮市)にも、負傷者が次々に担架代わりの板で運ばれてきた。中にはすでに事切れた人もいた。「停電で検査機器が動かない中、朝から晩までひたすら縫合した」。修羅場を通して、命の尊さを実感した。

 その後、心臓病センター榊原病院(岡山市北区丸の内)で経験を積む村上が独り立ちするのは2005年。何でも教えてくれた師の一人岩崎孝一朗医師(現岡山旭東病院勤務)の転勤による。

 「おまえに任せる」という病院幹部の言葉。それは、今の村上を築いた言葉と言える。

 コンピューター断層撮影(CT)、血管造影、血管内超音波…。最新の画像診断装置も駆使した治療は、事もなげに映る。それでも、千差万別の患部の狭まり方に即して、カテーテルを先導する髪の毛ほどの針金・ガイドワイヤやカテーテル先端の風船を操らなければ、血管を突き破ったり破裂させてしまう恐れも潜むのが、この治療の世界である。

 そんなことはまず起きないと強調する村上だが、「万一の場合、冷静に対処できるから」と、大出血といった最悪の場合を常に思い描き治療に臨む。

 技術向上の努力も怠らない。カテーテルを使った虚血性心疾患の治療では国内トップ級とされ、もう一人の師とする光藤和明・倉敷中央病院副院長による勉強会を通して、患部が百パーセント詰まり治療が最も難しい慢性完全閉へい塞そくへの対処も学ぶ。指先に伝わるガイドワイヤの微妙な感覚で患部の状況をつかむ光藤の職人技も、少しずつ自分のものになってきた。

 ステントの金網のすき間から血管内側の細胞が盛り出す再狭きょう窄さくの確率は一般的に、技術の向上で小さくなっている。その背景の一つが、塗布された免疫抑制剤が肉盛りを防ぐ薬剤溶出ステントの登場。村上が最新型のものを使った約170人のうち、再治療が必要だったのはわずか3%程度だった。

 他の仲間4人と09年、開業した。大学医局の人事による転勤がない今の環境は「理想的」とする。それは「患者を一生ケアするつもりでなければ、治療とはいえ金属を心臓に入れる資格はない」との思いがあるからだ。

 安全性と技術に裏打ちされた実績、そして熱いハートが、村上をさらなる高みに導く。(敬称略)

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 むらかみ・まさあき 金光学園高、愛媛大医学部卒。国立岩国病院、西宮渡辺病院、岡山大学病院、心臓病センター榊原病院を経て、2009年から岡山ハートクリニック内科部長。趣味はゴルフで、院内では同好会の世話人役を引き受けている。

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 狭心症と心筋梗塞 この二つは虚血性心疾患と呼ばれる。冠動脈で動脈硬化が進むと、内壁にコレステロールがたまり内径が狭まることで、血液がスムーズに流れなくなる。このため心臓の筋肉に酸素や栄養分が十分行き渡らず、一時的な発作が起きる。この段階が狭心症。心筋梗塞は、たまったコレステロールが崩れた部分で血液がよどみ、血の塊(血栓)ができることで血管が詰まった状態。血流が大幅に減ったり途絶えると激しい発作が起き、死に至る場合もある。

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 外来 村上内科部長の診察は月曜日午前と水曜日午前、午後。受付時間は午前8時半〜11時半、午後1時半〜5時半。電話予約も可能で、日曜と祝日を除く毎日午後2〜5時に受け付ける。

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岡山ハートクリニック

岡山市中区竹田54の1

電話 086―271―8101

メール ohc@okayama−heart.com
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年01月16日 更新)

タグ: 心臓・血管

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