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脳死肺移植の兄妹、そろって元気に 2011年春と冬、岡山大病院で手術

執刀医の大藤チーフと談笑する脳死肺移植を受けた兄妹

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で2011年、重い肺の病気で脳死肺移植を受けた兄妹=いずれも鳥取県在住=がいる。兄(60代)が移植を受けたのは春。冬に入って手術した妹(50代)は26日に退院する予定だ。2人は「兄妹で同じ病気になってしまう運命を嘆いたが、そろって元気になれた。ドナー(臓器提供者)やそのご家族、移植してくれた先生に感謝したい」としている。

 2人の手術を担当した岡山大病院の大藤剛宏肺移植チーフによると、兄妹で脳死肺移植を受けたケースは日本では初めてという。

 兄は1998年ごろ発症し、せきや息切れで酸素ボンベを持ち歩く生活だった。病院で強制的に呼吸を維持する人工呼吸器を装着するなど移植しか治療法がなくなり、2009年に日本臓器移植ネットワークへ登録した。

 妹も1998年ごろ、同じ病魔に襲われた。兄のアドバイスと地元病院の主治医の後押しで2010年に移植ネットに登録。手術までの待機期間は兄が約2年、妹は1年1カ月だった。

 移植ネットによると、09年末までに国内で脳死肺移植を受けた患者の平均待機期間は約3年。平均より短期間で手術を受けられた兄妹は、家族承諾で脳死臓器提供を可能とし、ドナーを急増させた改正臓器移植法の全面施行(10年7月)の恩恵を受けたことになる。

 退院直後には、しんどさが残っていたという兄は順調に回復し、「一人で何でもできるようになり、病気だったころがうそのよう」と喜ぶ。術後の経過が良く、退院が目前の妹は既に“新生活”へ思いをはせ、「病気になる前に道具をそろえていたゴルフに挑戦したい」と話す。

 大藤チーフは、この兄妹のように遺伝的な問題などによって親族間で同じ病気にかかるケースは少なくないといい、「同じような境遇の患者さんに希望を与える存在になってほしい」と願う。

 ドナーが増え、身近な医療となりつつある脳死移植。その費用は「とてつもなく大きな負担にはならない」と移植ネットは説明する。ほとんどのケースで保険が適用されている上、病院窓口での自己負担額が一定金額を超えた場合に超過分が払い戻される「高額療養費制度」も利用できる。障害者手帳を持っていれば自己負担はほとんどいらないという。

 ドナーの無償の善意や関係者の努力、国民皆保険で命をつなぎ留めた2人。機会があれば実体験を語ることで、地元ではまだまだ周知が不足している「移植医療」の発展に寄与するつもりだ。

 改正臓器移植法 脳死ドナー増などを目指し、2009年7月に成立、10年7月17日に全面施行された。15歳未満の脳死臓器提供を禁止していた年齢制限を撤廃、本人の事前拒否がなければ家族承諾で脳死提供できるなど要件を大幅に緩和した。1997年の法施行から改正までの13年間で現れた脳死ドナーは86人。改正後から1年半の脳死ドナーは74人(12日現在)と急増している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年01月22日 更新)

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