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(3)幼児期の自閉症スペクトラム障害と療育 旭川荘療育センター児童院精神科部長 津島児童学院診療室長 本田輝行

 ほんだ・てるゆき 児童精神科医。1991年島根医科大(現・島根大)卒。岡山医療センターなどで勤務後、2005年から現職。旭川児童院での診療のほか、情緒障害児短期治療施設、児童デイサービス、児童相談所、保健センターなどで相談を行っている。精神科専門医、医学博士。

フィンランド・タンペレ市のVeisu保育園の小集団療育活動を行う部屋

自閉症スペクトラム障害

 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、三つの特徴(Wingの「三つ組」=表参照)がある「アスペルガー症候群」とその特徴がよりはっきりしている「自閉症」を合わせた呼び名で、これらをひとつながりでみています。同じような範囲は「広汎性発達障害」とも呼ばれます。また「発達障害」と言うと、主にASDのことを言っていることが多いように思われます。このように、現在はいろいろな呼び方があり、わかりにくいのですが、大切なのは、まずASDであるかどうかです。

 ASDは生まれながらの脳の発達の偏りとされており、全員に共通した原因はまだわかっていません。育て方は大切ですが原因ではありません。特徴の程度によっては、「一見」障害があることがわかりにくい子どももいて、「わがまま」「頑張り不足」など誤解され続けることがあります。こういった育ちでは、社会性や自尊心が育ちにくく、思春期以降の対人関係や気持ちのコントロールで躓(つまず)くこともあるのです。

自閉症スペクトラム障害児の療育

 ASDの子どもには、一人一人に合った丁寧なかかわりが必要です。特に早期すなわち幼児期の支援は成長を促し、将来の適応にもつながります。

 早期支援のポイントは、早期発見、子ども自身への療育、家族・園の支援です。

 早期発見は支援の第一歩です。3歳くらいまでは、言葉の発達は個人差が大きく、就園状況もさまざまです。そんな中でASDの特徴はわかりにくいかもしれませんが、この時期から特に社会性の発達への視点は大切で、健診や担当の保健師さん、園の先生、そして家庭でのお父さん・お母さんの気づきに期待されます。

 早期発見後、病院での評価と診断にもとづき、療育が計画されます。療育は病院や児童デイサービスで行われますが、正しい方向で療育がすすめられるためには、児童精神科など専門医療による継続的評価と判断が必要です。

 療育は、それぞれの子どもの特徴や知的水準に合った教育的プログラムで、これからの集団適応、対人関係をイメージもしています。

 その目標は、社会性、やりとり・コミュニケーションの向上、自信をつけ我慢する力・頑張る力を育むこと…です。理解力、体の使い方や感覚面の成長も目標とされます。

 そのときの子どもの様子や状況によって、個別・集団といった形を考えます。例えば、「しっかりとやりとりの力や理解力を伸ばしたい」ときには一対一のプログラムが計画されます。集団を経験していない未就園児には、ゆるやかなルールのある小集団の経験としてのプログラムが、また就学前の年長児には、ソーシャル・スキル・トレーニングとしての小集団プログラムが計画されることがあります。

 ASD児の療育には、構造化という方法が有効です。この方法では、何をするのか子どもがわかるような見通しを与え、気が散らず取り組める環境を用意します。そして上手にできたときにほめて自信をつける配慮がなされ、正しいことを子どもがわかるように教えることができます。

 保護者は、療育の様子を見ることと診断・客観的な評価をもとに、家庭でのかかわり方を学ぶことができます。またそれを園に伝えることは、園での適切なかかわり・支援にもつながります。

 家庭でのよいかかわりには、お父さん・お母さんの心身の安定も必要です。しかし親もいつも余裕があるとは限りません。無理なく考えるとよいと思います。そして家族がお互いにわかり合っていることは子どもの成長によい影響を与えます。

 ASD児の支援では、「今できること」だけでなく、学童期、思春期のイメージを持っておき、「これから」についての専門医や療育者と相談することも大切です。そして就学後も継続して子どもを見守り、相談していく大切さを知っていてもらえたらと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月19日 更新)

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