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心臓病の診断と診療最前線 岡山ハートクリニック カテーテルの最新療法紹介

【写真左上から】日名一誠理事長、村上充院長、【同左下から】村上正明副院長、山地博介ハートリズムセンター長

【写真上】会場には市民約200人が訪れ、最新療法の解説に耳を傾けた【同下】講演後に行われた健康相談

 山陽新聞メディカ健康講座「心臓病の診断と治療最前線」が3月18日、岡山市北区柳町の山陽新聞社で開かれた。岡山ハートクリニック(同市中区竹田)の医師が狭心症や心筋梗塞、心房細動をターゲットに、いずれもカテーテル(細い管)を使う最新療法を紹介した。市民約200人が傾聴し、講演後は同クリニックの日名一(かず)誠(よし)理事長や村上充(たかし)院長らが応じる健康相談に列をつくった。

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再狭窄防ぐ薬剤溶出ステント
狭心症・心筋梗塞の診断と治療 村上正明副院長
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 心臓は、動脈経由で全身に酸素や栄養を送っている。この二つは心臓自身にも必要で、供給ルートの冠動脈で動脈硬化が起きて狭まったり詰まったりすると、狭心症や心筋梗塞が起きる。どちらも、命に危険を及ぼす。

 狭心症と心筋梗塞は痛み方が違う。狭心症は、締め付けられるような重苦しさや圧迫感を訴える場合が多い。ただ長くても15分程度で収まる。心筋梗塞は、恐らく「人間が感じる最高の痛み」に近い。突然襲われ、30分以上続くことが多い。

 狭まりや詰まりが見つかったら、先端に風船を付けた細い管を患部に通して治す。いわゆるバルーンカテーテル療法だが、私たちは、「薬剤溶出ステント」を利用する最先端の手法で治療している。

 治療では、手首の血管から挿入したカテーテルを患部に届かせる。そこで風船を膨らませることで、血管を内部から押し広げる。風船の外周にはあらかじめ、ステント(金属製の網)を巻き付けている。風船の膨張に合わせてステントが開き、広げた血管を支える。

 ステントには免疫抑制剤や抗がん剤が塗られている。薬がしみ出すことで、血管内部が再び狭くなる再狭(きょう)窄(さく)を相当防いでくれる。

 再狭窄率の比較データがある。薬剤溶出ステントを使うと大体5%以下。通常のステントは20〜30%で、風船で広げただけの場合は40〜50%。圧倒的な差だ。

 治療で血液の流れが良くなると、階段を上がっても、走っても、胸は何ともない。締め付けもない。

 ただ、ステントを置いた直後は、むき出しの金属に血小板が集まり、血栓(血の塊)ができる可能性がある。予防としてしばらくの間、血液がさらさらになる抗血小板剤を飲んでもらうことになる。

 狭心症や心筋梗塞の有無を診断する検査方法はいくつかある。精度が飛躍的に向上したコンピューター断層撮影(CT)は非常に有用で、冠動脈内の狭さなど1ミリ、2ミリの世界が分かり、一度に多くの画像が撮影できる。

 カテーテルは検査でも使う。冠動脈に到達させて造影剤を入れることで、冠動脈の状態を見ることができる。私たちのクリニックでは、日帰りでカテーテル検査を受けることができる。検査自体の所要時間は20分程度だ。

 狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化は、悪玉コレステロールと高血圧、たばこが「3大危険因子」と言われている。この因子が重なった場合は、動脈硬化を引き起こす恐れがより高くなることを知っておいてほしい。

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心筋焼灼し異常な電気遮断
心房細動治療の最前線 山地博介ハートリズムセンター長
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 心臓は、右心房の洞結節から出る電気信号に基づき、正常時は1分間に50〜100回拍動している。だが不整脈の一種、心房細動はよそから勝手に電気が起き、脈がバラバラに1分間350〜500回も打つ。

 最大の原因は加齢で50代から増え、心臓病や、特に女性は甲状腺機能亢進(こうしん)症からなりやすい。睡眠不足、アルコール、肥満、喫煙なども誘因になるが、約半数は原因不明。

 心房細動は発作性と持続性・永続性(慢性)がある。自然治癒はせず進行、慢性化すると心臓が拡張し治しにくくなる。発作性の症状は動悸(どうき)、息切れ、胸痛、倦怠(けんたい)感があるが、約半数は何も出ない。発作の不安感から生活の質が低下する。慢性になるほど無症状になり、心不全を起こすこともある。

 合併症で一番怖いのが長嶋茂雄・プロ野球元巨人監督やオシム元サッカー日本代表監督もなった脳梗塞。心臓内の血流がよどんでできた血栓が、脳の血管に運ばれて詰まる。脳梗塞の30%を占め、命に関わる。

 心房細動は心電図検査で分かり、心エコー検査で他の心疾患がないか調べる。24時間分を記録できるホルター心電計や、いつでも自分で記録できる携帯型心電計もある。

 唯一の発症予防法といわれるのが、高血圧を治療し血圧を下げること。治療は発作性の場合、抗不整脈剤を使うかカテーテルアブレ―ション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)を行う。持続性・慢性の場合、心拍数を調整する薬や抗不整脈剤を使う。一時的に電気ショックを与えることもあるが、根治療法は心筋焼灼術しかない。

 心房細動の9割は肺静脈から余分な電気信号が出て、左心房に伝わって起きている。この信号を遮断するのが肺静脈電気的隔離術。脚付け根の静脈からカテーテルを入れ、心臓まで進める。続いて肺静脈の周囲を高周波電流で焼く。

 新しいカテーテルは焼く時に先端から生理食塩水が出て血栓ができにくく、よく焼ける。心臓内を立体的に見られる3次元診断装置も使い、治療後は肺静脈から出てくる異常な電気信号が消えたことを確認する。抗不整脈剤が無効な発作性患者は施術後、治る率が高い。症状のある持続性、脳梗塞や心不全既往がある患者も適応対象。高齢者でも安全に治療ができる。

 心臓の拡張が治療後に収まり、機能改善も報告されている。いろんな道具や方法が考案されており近い将来、心房細動は心筋焼灼術で治せば長生きできるというデータも出てくるだろう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月02日 更新)

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