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(39)認知症 脳神経センター大田記念病院(福山市) 栗山 勝院長(64) 田中 朗雄副院長(48) 総合力で治る病気を鑑別 地域連携深め医療けん引

認知症にチーム医療で当たる栗山院長(右)と田中副院長

 老境に入り、物忘れをするのはある程度致し方ない。用心すべきは、病気が潜む認知症だ。

 一口に認知症というが病名ではなく、知的な活動や言動、精神などに障害が現れ、日常生活に支障を来す状態を指す。種々の病気が招き、高齢化に伴って国内患者は既に300万人ともいわれる。

 だが「早期に治療すれば進行を遅らせることができ、治る認知症もある」。備後地域の脳神経センターとして名高い大田記念病院で、診断・治療の最前線に立つ二人は力説する。

 原因疾患の過半数を占めるのが、しみ状の老人斑が大脳の広範囲に現れ、神経細胞が変性するアルツハイマー病。脳卒中の後遺症による脳血管性認知症、大脳皮質に異常なタンパク質が蓄積するレビー小体病も代表的だ。

 アルツハイマー病はかつて、原因不明で「あきらめの病気」といわれた。変性した神経細胞は元に戻らず、根治薬は今もないが、薬で進行スピードを抑えられ、生活習慣病対策の食事や運動で予防もある程度可能となった。脳血管性、レビー小体病も薬で脳の血流を改善させたり、進行を遅らせたりできる。

 さらに脳中心部の脳室に髄液がたまる正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB1、B12欠乏症などが原因なら、手術や薬で完治が望める。患者、家族が受ける恩恵は大きいだけに栗山は「治る病気を見逃さず、確定診断をきちんとすることが大事」と語る。

 外来で問診とともにまず行うのが改訂長谷川式簡易知能評価スケール、ミニメンタルテストといった認知機能検査。年月日、3単語の記憶力、簡単な計算などを試す。

 新しいことが覚えられない記憶障害、時間や場所が分からなくなる見当識障害、判断力低下、失語などの中核症状。妄想、抑うつ、不眠、徘徊(はいかい)、失禁…の周辺症状。そうした特性に照らして「認知症の有無や障害度をつかむ」と栗山。

 加えて全身状態を調べる血液検査、体にまひや感覚障害がないか神経学的に検査し、原因を絞り込む。そして確定診断の切り札が画像診断、田中の腕の見せどころだ。

 田中が多用するMRI(磁気共鳴画像装置)は、治る認知症か否かの鑑別に役立つ。ただ、早期のアルツハイマー病は厄介。側頭葉内側の記憶に関わる海馬付近から萎縮するのだが、軽微な変化で分かりにくい。

 そこで活用するのが診断支援システム「VSRAD」。解析ソフトで萎縮の程度を数値化し、部位を色分けしてくれる。それでも診断が難しい場合は「脳血流SPECT」。放射性医薬品を静脈注射し、専用カメラを頭の周囲に回転させ、脳内の血流状態を調べる。

 「アルツハイマー病は頭頂葉、レビー小体病は後頭葉の血流低下が見られるなどパターンがあり、正確な診断に有用」と田中。「診察結果などと合わせ総合的に判断する際、画像診断は大きな一助になる」と話す。

 栗山は「新しい領域」とひかれ、神経内科医になった。「病気だけでなく人をみる」信条で患者と向き合い、求道者のごとく約40年走ってきた。だが認知症は一病院、医師だけでは対処しきれない。

 「薬物療法、音楽や運動など非薬物療法、ケアの3本柱が重要で医療従事者、地域の介護力が欠かせない」。そのため院長就任後の2010年、「備後認知症ネットワーク研究会」を発足させた。認知機能検査「長谷川式」を開発した聖マリアンナ医科大名誉教授の長谷川和夫ら名医を招いた勉強会は4回を数え、地元医療・介護・福祉、行政関係者の連携強化、レベルアップに寄与する。

 田中は「画像読影で疾患を見つける面白さ」から放射線科医となり23年。患者のためにと、脳や脊髄を中心に、日進月歩の診断技術と知識の研さんに励んだ。「なくてはならない存在」と栗山に言わしめる今も、「プロとして最新の医療を提供したい」と眼力の精進を怠らない。

 車の両輪たる二人。地域医療のけん引車となり、認知症とさらなる闘いを続ける。 (敬称略)

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 くりやま・まさる 福岡県立明善高、鹿児島大医学部卒。米セントルイス大留学、鹿児島大医学部助教授などを経て福井大医学部教授。2010年から現職。歴史、地理好きで、作家司馬遼太郎の大ファン。

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 たなか・あきお 倉敷青陵高、岡山大医学部卒、同大学院修了。米マウントサイナイ病院、岡山大学病院などを経て2001年から脳神経センター大田記念病院放射線科部長。06年から副院長兼任。趣味はテニス。

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 アルツハイマー病の治療薬 国内では1999年発売の塩酸ドネペジルしかなかったが2011年、ガランタミン、貼り薬リバスチグミン、メマンチンの3種類が加わった。メマンチンは神経伝達物質グルタミン酸の受容体に作用し、神経細胞を保護する。他の3薬は、神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害し、認知症の進行を抑える。対象は、ドネペジルが軽度〜高度▽ガランタミンとリバスチグミンが軽度〜中等度▽メマンチンが中等度〜高度の患者。メマンチン以外はいずれか1種類の使用となるが、メマンチンとの併用はできる。

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 外来 栗山院長の診察は火、水曜日の午前、田中副院長は月、水曜日の午前。田中副院長は再診が中心。



脳神経センター大田記念病院

福山市沖野上町3の6の28

電話 084―931―8650
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月21日 更新)

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