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救急法の基礎 空白時間 埋めて救命 鍵は心肺蘇生とAED 

胸骨圧迫とAED操作に取り組む講習参加者。万一の場合に冷静に対応するには、つねに知識を確認しておくことだろう=5月26日、日赤県支部

 呼吸が止まった人を救うには、救急車到着までの空白時間を埋めることが重要です。鍵は心肺蘇生(胸骨圧迫、人工呼吸)や自動体外式除細動器(AED)使用による一次救命処置。熱中症や水難が心配な夏を前に、日赤県支部(岡山市北区丸の内)が定期的に開く「赤十字救急法基礎講習」を受講しました。

 「胸骨圧迫は、1分間に100回押すようなテンポ。みぞおちは押さないで」。5月下旬、同支部会議室。指導員の助言を受け、記者(40)は訓練用人形の胸部を押し続けます。その後、AEDを作動。電源を入れて電極パッド2枚を人形に装着し、電気ショックの必要性の有無を判断する心電図解析が自動的にスタート―。

 手順通りにできているのか、実際の場面では落ち着いて対応できるのか。不安が脳裏をよぎりますが、大山護さん=同支部事業推進課=が励まします。「人を救うんだという強い気持ちが大切です」

胸骨圧迫30回

 講習は日本蘇生協議会(JRC)の最新ガイドラインに沿って行われます。心肺蘇生とAED使用は、(1)周囲の安全確認(2)意識の有無の確認(3)近くの人への119番依頼とAED手配―などの後です。心肺蘇生の“基本”は「胸骨圧迫30回の次に人工呼吸2回」。これを、普段通りの呼吸が戻るか救急隊に引き継ぐまで続けます。

 心肺蘇生では胸骨圧迫が重視されます。人工呼吸は、市民のためらいが予想されるほか、倒れた人の頭を後ろに傾けての気道確保や酸素を胸に送り込むのが難しいのも背景です。日赤の講習テキストは「人工呼吸する意思や技術がなければ、胸骨圧迫だけでも構わない」と記します。

 普及が進むAEDですが、記者は今回初めて扱いました。音声ガイドが本体から流れるとはいえ、「訓練なしに扱うとやはりまごつくと思う。1回はAEDに触れておいた方がいい」。受講者の石原亜純さん=美作市立勝田東小養護教諭=の言葉にうなずきました。

生存率に差

 消防白書によると、心臓が原因の心肺停止で倒れたのを市民に目撃され、救急搬送された2万2463件(10年)について、市民の一次救命処置が行われたのは約半数の1万1195件。うち1カ月後の生存率は14.0%で、行われなかった1万1268件の生存率8.8%を上回っています。一次救命処置の心得を持つ意味が、数字からも分かります。

 岡山県内では同支部以外に、NPO救命おかやま(理事長・氏家良人岡山大学病院高度救命救急センター長)や消防機関が一次救命処置を市民に教えています。岡山市消防局は1994年から約2500回以上行い、計約6万2000人に受講証を渡しました。

 救命現場に詳しい岡山赤十字病院(岡山市北区青江)医療社会事業部長の石井史子医師は、こうしたすそ野拡大の必要性を強調した上で課題を挙げます。「一次救命処置に携わった市民が、現場での緊張感から生じた精神的ストレスを抱え込んだ場合のフォロー態勢もつくっておくべき」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月18日 更新)

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