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岡山大病院 脳死両肺移植ルポ 好連携で難手術成功

左側の手術台では肺と周辺組織とを剥離中。右側ではドナーから提供された肺の管理が行われている=23日午後8時57分、岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で23日夜から24日未明にかけ、中国地方在住の50代男性への脳死両肺移植が行われた。手術時の出血や心不全発症が問題になる原発性肺高血圧症患者への手術で、肺移植の中でも最も難しい症例の一つ。だが移植チームのスムーズな連携で無事成功した。ドナー(臓器提供者)から患者へ。記者が手術室に入り“命のリレー”の現場を目の当たりにした。

 「では血流を再開、人工呼吸器を再開しましょう」

 ドナーの肺を体内に入れ、血管との縫合が終わった24日午前1時25分ごろ。執刀医の大藤剛宏肺移植チーフの合図で血液、そして空気が送り込まれると、しぼんでいた肺は瞬く間にピンク色になり、大きく膨らみ始めた。

 肺が心臓の鼓動に応じて、小さく動きだした。生命維持のため、手術中動かしていた人工心肺装置の出力を少しずつ落としていく。1時間後、同装置から完全に離脱。手術前に聞いた手順通りだった。

 だが、一つだけ事前説明と違うところがある。「出血」の量だ。

 原発性肺高血圧症は肺の血管が細くなって血圧が上がり、呼吸、心機能が低下する。心臓から送られる血液を肺の血管が十分に取り込めず、迂回(うかい)して入り込んだ毛細血管はパンパンだ。

 「少しメスを入れただけでも毛細血管が切れ、大量に出血する。最もリスクが高い手術」と大藤チーフ。体内の血液量は体重50キロの男性で約4千CCとされるが、その5倍の2万CCを超える輸血が必要になることもある。

 そんな矢先、肺の付近でにじむ血液が目立ち始めた。だがメンバーは冷静だ。丁寧な止血を繰り返し、一歩ずつ前へ。手術は予定より3時間以上早い午前4時18分に終了した。

 集中治療室に移った患者の容体は安定。輸血量はわずか800CCだった。早ければ2週間で一般病棟へ移り、2、3カ月で退院できる見込みという。

 麻酔を担当する麻酔科蘇生科、人工心肺装置を取り付ける心臓血管外科の医師、同装置を調整する専門技師、メスや縫合針などの器具を医師に手渡す看護師…。23日午後7時48分に始まった手術に携わった肺移植チームは総勢20人。8時間超の手術を終え、それぞれの職場に戻って、24日も通常業務をこなしたそうだ。

 岡山大病院の脳死肺移植は39例目、生体を含めると今回が99例目で国内最多を誇る。「積み上げてきた経験は大きい。今回もそれぞれが自分の役割を理解し、動いていた」と大藤チーフ。次はチームが目標としてきた100例目になる。

 大藤チーフは言う。「われわれは日本最強のメンバー。常に全力で臨み、一人でも多くの患者さんを救いたい」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月25日 更新)

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