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(2)肺がん手術について 岡山赤十字病院呼吸器外科部長 葉山牧夫

葉山牧夫氏

 ■肺がん手術の適応は?

 肺がん手術の適応はステージが主に1期と2期の方と、3期の一部の方となります。そのため手術を受けていただくにはステージング(ステージを決めること)が必要となります。また、CT画像で肺がんが強く疑われる場合は、気管支鏡検査などによる病理学的(顕微鏡での)確定診断がない方でも手術をすることがあり、当院でも3割程度の方は術前の病理学的確定診断がない状態での手術となっています。

 ■最近の話題と当院の取り組み

 肺がん手術ではこれまで肺がんができた肺葉(肺葉は右に3葉、左に2葉の合計5葉あります)を切除する肺葉切除=図1=が推奨されてきましたが、2センチ以下の末梢型(肺の外側にある)肺がんでは区域切除でも同等の成績であることが日本の大規模臨床試験(JCOG0802/WJOG4607L)の結果として2022年に報告され、2センチ以下の末梢型小型肺がんに対しての区域切除も肺がん診療ガイドラインで推奨されるようになりました。

 発生部位により、区域切除の適応とならない場合もありますが、肺葉切除と比べ区域切除=図2=では切除範囲が4分の1から2分の1程度となりますので、その意味は大きいと思います。当院でもすでに肺がん手術の3割程度は区域切除ですが、今後、その割合が増加してくると予想されます。

 区域切除以外の最近の話題として、これまでは手術適応がない方にしか使用できなかった免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬が手術前後に使用できることになった点があります。これにより手術の成績が決して良好とは言えなかった肺がんステージ2期や3期の成績が改善してくることが期待されます。これらの薬剤使用には肺がんステージ以外にも条件がありますので、呼吸器内科とのカンファレンスで検討して、患者さんに提案していくことになります。

 また、「人生100年時代」とも言われますが、肺がんについてもその限りでなく、全国規模の調査でも手術を受ける方の約13%が80歳以上で、当院でも18%が80歳以上の方です。このことからも80歳以上という年齢の理由だけで手術を受けることをあきらめてはいけません。呼吸機能検査や心臓の検査はもちろん参考にしますが、日頃の活動性(元気さ)をみて、手術を受けていただくかを提案しています。

 手術が決まれば、入院前から呼吸器リハビリ、口腔(こうくう)ケア、薬剤指導などさまざまな面から安全に手術を受けていただけるようにサポートしています。手術は不適と判断した場合でも、放射線治療を提案できることが少なくありませんので治療の手段は残されています。

 肺がんをしっかり治すためには、手術を受けることができるステージで肺がんを診断することが重要です。「肺がん疑い」と検診やかかりつけの先生に診断された方は、ぜひ早めに当院などの専門病院を受診していただくようにお願いします。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 はやま・まきお 岡山大医学部、同大大学院卒。川崎医科大付属病院、三豊総合病院、独協医科大付属病院、岡山大病院などを経て、2014年から岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医・指導医、呼吸器外科専門医・評議員、がん治療認定医機構がん治療認定医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年07月17日 更新)

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