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(7)肺がんの外科治療 倉敷中央病院呼吸器外科主任部長 小林正嗣

ロボット手術など胸腔鏡下による小さな傷の手術を積極的に取り入れている

小林正嗣氏

 ■肺がんとは

 まず、肺は右側が三つ、左側が二つの「肺葉」からなっています。この五つの肺葉が人間の呼吸をつかさどり、酸素と二酸化炭素を交換し、基本的な生命維持を保つ重要な役割を果たしています。近年、その大事な肺に生じる肺がんは増加の一途であり、また、がんの中で死亡者数が最も多い病気となっています。

 肺がんの主な治療法は「手術」「放射線療法」「薬物療法」で、がんの種類と進行度、患者さんの体の状態によって、よりよい治療を選択する必要があります。

 ■肺がんへの外科治療

 肺がんの外科治療である肺区域切除手術についてお話します。手術方法は肺全摘・肺葉切除・肺区域切除・肺部分切除の四つに分かれます=図。標準外科治療は、肺葉またはそれ以上を切除し、周囲のリンパ節を取り除く(リンパ節郭清)ことです。最近では、縮小手術と呼ばれる方法で、肺葉をさらに細かく分類し、区域ごとに切除する「区域切除」、そして、がん病巣の周囲を切除する「部分切除」があります。特に早期肺がんに占める区域切除が肺がんの手術全体に占める割合は、全国的にもここ数年で増加しています。CT検査の普及で発見されるすりガラス陰影と呼ばれる早期の肺がん、リンパ節転移のない病期1期の肺がん患者さんや、体力的に肺葉切除術が難しい高齢の患者さんが増加し、既存疾患にてより負担の少ない手術が必要となる患者さんが対象となります。

 ■当院での取り組み

 肺がんの縮小手術は、肺実質を少しでも多く残すことで呼吸機能を温存し、治療後の患者さんの生活の質(QOL)を維持することが可能となります。一方、肺がんの手術の最も重要な目的は、根治を目指すことです。がんを完全に取り切れなければ、患者さんの負担が減っても手術の意味がなくなってしまいます。

 縮小手術では、がんの取り残しによる局所再発の危険性をできるだけ低減させるために、慎重な術前評価や術中にリンパ節転移の有無、肺の切離面にがん細胞が残っていないなど、病理学的検査を行いつつ細心の注意を払い手術を行っています。また、ロボット手術を含む胸腔(きょうくう)鏡下による小さな傷の手術を積極的に取り入れています。

 肺がんの縮小手術はどの患者さんでも適応になるわけではありません。患者さんの肺がんの病態や病巣の存在する場所、肺気腫の程度や呼吸機能、既存疾患の合併などに影響されるため、総合的に判断し決定していきます。

 肺がん手術を受けられる際は、ご本人がどの術式が最も効果的で安全に治療を受けることができるか、エキスパートの先生と相談しながら、治療方針を決めていかれるのが重要と考えられます。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 こばやし・まさし 関西医科大学卒。長良医療センター、兵庫県立尼崎病院、東京医科歯科大学を経て、2020年から倉敷中央病院勤務、22年から呼吸器外科主任部長。呼吸器外科学会評議員、呼吸器外科専門医、日本外科学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年10月02日 更新)

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