文字 

井笠の分娩施設 24年からゼロに 各自治体 搬送など態勢づくりに力

妊娠や出産に関する笠岡市の相談窓口。産婦人科医院の閉院に不安の声が寄せられている

 笠岡市で唯一の産婦人科医院が12月末での閉院を決め、分娩(ぶんべん)に対応できる医療機関が井笠地域の3市2町から姿を消すことになった。公立病院での受け入れはマンパワー不足などから難しく、自治体は緊急時に妊婦を近隣市に搬送する態勢づくりに力を入れ始めた。ただ、住み慣れた地域で子どもを産めなくなる事態には不安の声も上がっている。

 閉院する産婦人科医院はJR笠岡駅から徒歩数分の場所にあり、笠岡市をはじめ、井原市や里庄町などの利用者も多い。全室個室でプライバシーが確保され、産前産後の手厚いケアも評判で第2子、3子と続けて利用する妊婦が多かったという。昨年は、井笠地域の年間出生数の約半数に当たる351件の分娩に対応した。

苦渋の決断


 岡山県医療推進課によると、県内で分娩を扱う施設は4月時点で39カ所。出生数の減少などを背景に10年前の44カ所から減る傾向にある。7割以上は岡山、倉敷市に集中し、地域の偏りも目立つ。

 井笠地域では笠岡市立市民病院(同市笠岡)が2018年に分娩対応を休止して以降、今年で閉院する医院が一手に引き受けてきた。閉院は「諸般の事情」としているが、市内の医療関係者は「昼夜休みなく出産に備える必要があり、相当の負担。苦渋の決断と思う」と推し量る。

 市内には助産院が1施設あり、地域で子どもを産める環境が完全に失われるわけではない。ただ、医療機関での出産を望む妊婦は、倉敷や福山市へ足を運ばざるを得なくなる。

 結婚を機に昨年、笠岡市に引っ越した30代女性は「妊娠したら利用しようと考えていただけに閉院は残念」と口にする。

まちの衰退危惧


 危機感を強めた自治体は対策に動き出している。井原市と矢掛町は10月上旬、急を要する妊婦を市外や町外の医療機関に救急車で搬送する事業を開始。事前に出産予定日やかかりつけ医などを消防署に登録しておき、緊急時に備える。

 笠岡市も同様に搬送態勢の強化に努める方針。市子育て支援課は「健診についても、遠方の医療機関を利用する妊婦の支援は必要と考えている」とする。

 一方、9月定例笠岡市議会では市立病院での分娩再開を求める声も上がったが、市側は人材難などを理由に否定的な答弁を繰り返すにとどまった。

 井笠地域では、日本創成会議が14年に公表した「消滅可能性都市」に笠岡市が含まれるなど、まちの衰退が危惧されている。人口流出を食い止めるためにも、安心して出産できる環境の整備が急がれる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年10月21日 更新)

タグ: お産

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ