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県内医療機関9割近く医薬品不足 県保険医協会が緊急調査

サンヨー薬局あけぼの店ではせき止め薬が入荷せず、ケースが空っぽの状態が続いている=岡山市南区築港新町

 新型コロナウイルスや製薬会社の相次ぐ不正などで、医師が処方する医薬品の供給不足が深刻化している。岡山県内でも開業医らでつくる県保険医協会(岡山市)の緊急調査で、医療機関の9割近くが必要な分量の薬が手に入らないと回答。需要の高いせき止めやたんを切る薬に加え、抗アレルギー薬や糖尿病薬といった命に関わる薬も含まれていた。今冬は例年より早くインフルエンザの流行期に入っており、関係者からは「人が動く年末年始も近い。感染拡大でさらなる薬不足になりはしないか」と危惧する声が聞かれる。

 調査は9月に実施し、会員の計937医療機関のうち、180施設(病院9、医科診療所141、歯科診療所30)から回答を得た。回答率は19・2%。

 8月の時点で入手困難な医薬品が「ある」と答えたのは、158施設で87・8%を占めた。病院は九つ全て、医科診療所は132施設(93・6%)に上った。

 入手できない医薬品は、せき止めやたんを切る薬が特に多く、他にも解熱鎮痛剤や抗生物質など計49種類、124品目。中には特定の患者に使用される糖尿病薬や抗リウマチ薬、手術に欠かせない局所麻酔薬もある。

 医薬品不足は診療にも深刻な影響を与えており、「安定した入手が見込めず入院を断らざるを得なかった」「処方できず体調が悪化した患者がいた」「手術の予定が入れられない」と回答した病院もあった。窮状をしのぐために、医療機関や薬局では漢方薬など代替薬を使用したり、処方量を減らしたり、何とかやりくりしている。

 寒さが厳しくなるにつれ、風邪やインフルエンザの感染者が増え、せき止めや解熱鎮痛剤は需要のピークを迎える。

 同協会の木村哲也理事長は「あって当たり前の医薬品が入手できない今は異常事態」と指摘。安定供給の見通しが立っていないことから「国は必要量を確保する方策を早急に打ち出すべきだ」と訴える。

 同協会が加盟する全国保険医団体連合会(東京)は9日、岡山や四国4県などでの調査結果を基に厚生労働省に改善を要請する。

患者や家族に広がる不安


 医師が処方する医薬品が不足している問題で、患者や家族らの間に戸惑いや不安が広がっている。岡山県内の医療機関や薬局は処方量を減らしたり、代替薬を用意したりするなど何とか急場をしのいでいるものの、改善の兆しは一向に見えない。実態を探った。

 「卸業者から薬が入ってこないんです。空っぽの状態が何日も続いている」。医師からの処方箋を受け付けるサンヨー薬局あけぼの店(岡山市南区築港新町)。薬剤師の武蔵仁さんは、せき止め薬を収めるケースを見てため息をついた。

 9月ごろから徐々に品薄になり、10月に入ると入荷ゼロの日も珍しくなくなった。今のところは岡山県内のグループ15店舗で在庫を融通し合って調達できているが「これからインフルエンザの感染者が増えてくる。果たして持ちこたえられるか…」と不安は尽きない。

 先日は10代の子どものために、4日分計8錠のせき止めを求めて母親が来店した。たまたま入荷していた7錠全てを渡し、翌日、別の店から取り寄せた不足分の1錠を岡山市内の母親の自宅まで届けた。母親は何軒も薬局を回ったらしく、どこにも薬はなかったと途方に暮れていたという。

副作用や誤服用

 医療現場はどうか。

 11月初旬、岡山市の会社員女性=40代=は1歳の長男が熱を出し、市内の小児科クリニックを受診。解熱鎮痛剤が出されたが、気になったのは薬の量だった。以前は一度に5回分もらっていたのに、3回分に減っていた。

 主治医からは、調剤薬局の在庫が少ないためと説明された。「薬を飲みきっても熱が続く時がある。もっと出してほしいが、薬不足では仕方がない」と、女性は半ば諦め気味に話す。

 医療機関などは、処方量を減らすだけでなく、同じ効果が見込める漢方薬を代替薬として出すといった対応を取っている。しかし、岡山県保険医協会の緊急調査では、薬を変更することにより副作用が現れたり、間違って服用してしまったりするケースも報告されている。

使えぬ事態懸念

 「長期間の処方は避ける」「患者に残薬があれば有効活用する」。岡山赤十字病院薬剤部長で、岡山県病院薬剤師会の森英樹会長は先月末、院内の職員約1200人にこんな注意点を周知した。

 森会長が最も恐れているのは、救急外来などすぐにでも薬が必要な患者に使用できない事態という。例えば、子どもの熱でも様子を見ていい場合と、すぐにでも治療を始めなければならないケースがある。

 これまではどちらも薬を処方していたが、森会長は「供給状況が改善しなければ、全ての患者に薬を処方するのは難しくなるかもしれない。極端かもしれないが、患者の選別にもつながりかねない」と危機感を募らせる。

 ◇

 医薬品不足問題は、2021年以降、ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの不祥事が相次ぎ、生産量が落ち込んだほか、新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症の流行で供給が需要に追い付いていないことなどから起きている。現在は特にせき止めやたんを切る薬が少なく、厚生労働省によると、主要なせき止め薬はコロナ禍前の約85%まで生産量が低下しているという。同省は7日、製薬企業に増産を要請した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年11月09日 更新)

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