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針挿すだけで負担少なく 岡山大病院、腎臓がん凍結療法

岡山大病院で行われている腎臓がんの凍結療法。患者を取り巻く大きな装置がIVR-CT

患者の背中に挿入された5本の針。患部に氷の玉を作り、がんを破壊する

ガス噴射など凍結療法を制御する医療機器

 腎臓がんに細い針を挿入して零下40度まで冷やし、がん細胞を破壊する凍結療法に取り組む岡山大病院(岡山市北区)。外科手術よりも患者の身体的な負担が少ない同療法を受けられるのは、全国でも5施設だけだ。腎臓を摘出しなくてもよく、高い効果が見込める新たな治療法を紹介する。

 「では、針を挿していきましょう」。1月中旬、岡山大病院中央診療棟の1室。放射線科の郷原英夫講師の合図で治療が始まった。

 手術台には左腎に4センチほどの腫瘍が見つかった70代男性が腹ばいに。傍らには、治療中にがんの位置をリアルタイムで確認できるIVR―CT(コンピューター断層撮影装置)が設置されている。

 郷原講師はCT画像が映し出されたモニターでがんの位置を確認しながら1本目の針を挿入。がんの固まりの両端、中央部に計5本を挿したところで手を止め、「冷却を始めてください」。専門の技師に指示を送った。

 海外製の特殊な医療機器のスイッチが入った瞬間、針の先からアルゴンガスの噴射が始まった。15分間の冷却後、患部に直径5センチの氷の玉が出来上がった。

◆ ◆ ◆ 

 腎臓がんに対する凍結療法は1995年、国内の医師の手で世界で初めて実施された。がんの位置を特定するMRI(磁気共鳴画像装置)やCTなど医療機器の高度化で、欧米では一般の医療として普及してきた。

 一方、国内では腎臓の部分切除、全摘術が主流なため、東京慈恵会医科大など限られた医療機関でしか実施されてこなかった。2011年に保険適用になり、岡山大病院では翌年5月から治療を開始。今月13日までの症例数は患者29人、34腫瘍。いずれもがん細胞の破壊に成功しているという。

 金澤右放射線科教授は「治療効果は全摘術にも匹敵する」とし、次のようなメリットを挙げる。

 直径1・15ミリの針を背中から1〜5本挿すだけで治療でき、患者の身体的な負担が少ない▽臓器の温存により腎機能が残せるため、人工透析が必要となる腎不全のリスクが軽減▽一つの腎臓に複数のがんの固まりがあっても1度で治療可能▽遺伝的要素が強い腎臓がんは再発が多いが、早期発見なら何度でも治療できる―などだ。

 一方、極度の冷却で皮膚に凍傷が起きることもあるが、針を挿入した部分に湯をかけるといった対策が取られている。

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 がんを確実に死滅させ、再発を防ぐ―。

 がんの“生命力”は強く、1回の冷却では全てが死滅しないこともある。このため、凍結療法では2度の冷却を行う。70代の男性患者も5分間の休憩を挟み、15分間の冷却を2度実施。治療時間は3時間弱だった。

 「今回は針を5本挿したため、ちょっと時間がかかりました。患者さんと息が合えばもっと短くなりますよ」と郷原講師。治療後のCT画像ではがんの姿は消えたという。

 岡山大病院では今春、手術室などが入る新しい総合診療棟が稼働する。1階には腫瘍部に細い電極針を刺して焼き切るラジオ波治療などを専門に行う「IVRセンター」が設置され、凍結療法もここで行われる。

 センターには放射線被ばくがなく、さらに画像が鮮明なIVR―MRIを新たに導入。最新鋭機器での治療を始める。金澤教授は「現在4人いる執刀医をさらに増やし、腎臓がんの治療法の一つとして普及させるとともに、肝臓がん、肺がんなど他の疾患の治療にも拡大させたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年02月14日 更新)

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