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(上)性感染症  ウィメンズクリニック・かみむら院長 上村茂仁 

上村茂仁院長

 STI(Sexually Transmitted Infection、性感染)とは、セックスおよびそれに準ずる行為(キス、オーラルセックスなど)によって感染する病気のことをいいます。Infection(感染していること)をDisease(病気)に置き換えてSTD(性感染症)ということもあります。

 病気のもとになる細菌やウイルスは性器の周辺、精液、膣(ちつ)分泌物、血液などにいて、セックスなどによって感染します。クラミジア、淋病(りんびょう)、性器ヘルペス、尖圭(せんけい)コンジローマ、梅毒、HIV(エイズウイルス)感染症など15種類ほどのSTIが知られています。

 性感染症は若い女性に多く、私が以前、岡山の10代女性を対象に性感染症の検査を行ったところ、約10人に1人にクラミジア感染が見つかりました=グラフ1参照。これは、性行為経験があるが性感染症の症状も何もないという女子を対象にした結果です。また、今話題の子宮頸(けい)がんを起こすといわれているHPV(ヒトパピローマウイルス)は4人に1人の感染率でした。高校3年生の性行為経験率はほぼ40%なので、全ての10代女子の10人に1人はHPV感染ということになります。

 STIは、風俗の世界や特別な人だけに起こる病気ではありません。ほとんどのSTIには自覚症状がないので知らない間に感染していて、相手にうつしているという現状があります。特に前述したクラミジア感染症は、男女共にほとんど症状がなく感染します。

 しかし感染が長く持続した場合、クラミジアは組織を癒着させながら広がるので、卵管が閉塞(へいそく)して不妊症を招いたり、流産・早産の原因にもなります。ひどい場合はおなかの中全体に広がって腸管や内臓の癒着を起こし、激しい腹痛を感じ救急車で運ばれる例もあります。性行為経験があれば、誰もがSTIの可能性を持っているということを再認識する必要があります。

 このたび厚生労働省の勧告にもあるのですが、喉の性感染症が注目されています。オーラルセックスをした場合、クラミジアや淋病をはじめSTIが喉に生じます=グラフ2参照。HIV感染を起こす可能性もあります。

 クラミジア、淋病、HIV感染はコンドームを性行為の最初から確実に着けることでほぼ予防できますが、オーラルセックスでは着けることがあまりないため咽頭感染が広がっているのです。咽頭も膣と同様粘膜ですから当然、STIが起きます。私のクリニックでも咽頭検査で多くのクラミジア、淋病感染を見つけています。

 喉の検査は今はうがい水を使う検査が保険適応になっており、患者さんに負担をかけることなく検査できます。淋病は抗生物質の点滴1回で、クラミジアは抗生物質1回の内服でまず治療可能です。気楽に女性は婦人科に、男性は泌尿器科を受診してください。咽頭の感染が気になる方は、耳鼻咽喉科でも対応してくれます。

 HPV感染ですが、子宮頸がんの場合、膣の奥にある子宮頸部に最終的にHPVが到達しなければ、がんのリスクはありません。ところがこのウイルスは皮膚にひっついて伝搬するといわれ、男性性器から手を介して女性の性器へ、または手から女性の手に、そして女性の手から自分の性器へと伝搬されます。

 性行為の時にたとえコンドームを着けたとしても、外性器の表面に付いているHPVがコンドーム表面にくっつき、そのまま子宮頸部に押し込まれる形となります。従ってHPVの子宮頸部への感染は、コンドームでは防げません。子宮頸がんワクチンの接種(70%予防)と定期的な子宮頸がん検診(がんの手前で発見して治療することが可能)でほぼ完全に子宮頸がんは予防できるのです。

 春は受験や進学のストレスが過ぎ去り、学生たちが気を許すことが多い季節です。私のメール相談でも、性の問題が多く起きています。皆さんがSTIについて十分な知識を持って予防、検査、そして治療に対応できるよう願っています。

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 かみむら・しげひと 土佐高、川崎医大卒、岡山大大学院修了。産婦人科医。2004年、女性総合診療所「ウィメンズクリニック・かみむら」(岡山市北区本町)を開設。全国の小中高校で性教育講演を年間約80回行っているほか、若者から1日平均約100通の相談メールを受ける。日本思春期学会評議員。高知市出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年04月08日 更新)

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