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ドクターヘリからの報告(上) 救命に奔走 要請から3分で離陸

ドクターヘリの機内で患者の容体を聞く荻野副部長(中央)。必要な処置へ向け準備が進む

県中部の現場付近に到着したドクターヘリ

 「出動要請。ドクターヘリのエンジンスタート、お願いします」

 3月中旬、川崎医科大付属病院(倉敷市松島)。高度救命救急センターの荻野隆光副部長が携帯するトランシーバーから突然、声が聞こえてきた。

 院内のヘリ運航管理室からの無線連絡。担当者の証しでもある青いユニホームを着た荻野副部長ら救急医2人と看護師がヘリポートへ走る。機体上部のメーンローターは回り、離陸準備OK。出動要請から3分、時速約220キロで約30キロ先の県中部を目指した。

◆  ◆  ◆

 乗り込んだ機内は予想以上に狭かった。定員7人。パイロットと整備士が1人ずつ、医師2人と看護師1人、ストレッチャーに横たわる患者を含めると、家族は1人しか乗れない。壁際のわずかな隙間には簡易型の人工呼吸器や心室細動を治す除細動器などが並ぶ。まさに空飛ぶ「救命救急センター」だ。

 患者は運動中に倒れ、意識はあるが、体にまひがみられるという。荻野副部長は「脳血管障害の可能性が高い」と判断。看護師は患者の状態を記録用紙に書き込みながら、手早く点滴や人工呼吸器の用意を整えている。

 山間に整備された臨時ヘリポートと救急車が眼下に見えてきた。「着いたぞ」。ヘリから降り、救急車内で処置が始まった。離陸からわずか10分後のことだ。

 全国に先駆け、2001年4月に運用が始まった県のドクターヘリ事業。過去12年間の出動回数は4985回(24日現在)に上る。

 出動形態は今回同様、消防からの要請を受けて医師が現場で治療する「一次出動」と、救急車で病院に運ばれた患者を、より高度な治療ができる大規模病院へ搬送する「二次出動」の2種類ある。

 搬送患者で最も多いのは交通事故や転落による外傷、やけどなどの外因性疾患でおよそ60%。脳血管障害15%、心疾患10%―と続く。

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 現場の診察と処置で、患者の脳血管障害は決定的になった。専門的な検査や治療のため、川崎医科大付属病院へ運ぶ。到着から20分、再びヘリは離陸した。

 病院では脳卒中科の医師がスタンバイ。着陸後、スムーズな引き継ぎが行われ、救急外来でCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)の検査を実施した。

 要請から処置、搬送までに要した時間は40分余り。救急車で高速道を使ったとしても優に2倍以上必要だ。

 荻野副部長が言う。「心肺停止してしまうと、蘇生は難しくなる。その前にいかに状態を安定させて病院へ搬送するかが鍵。それが私たちドクターヘリに乗る救急専門医の使命なんです」



 生命に危険が迫った患者を救うため、きょうも岡山の空を飛ぶドクターヘリ。懸命の治療を行う救急専門医らの奮闘ぶりを報告する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年04月26日 更新)

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