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(61) 精神科疾患 山陽病院 中島唯夫院長(47) 「和と輪」のトータルケア 病院と地域つなぐ

デイケアを訪ねると、中島院長も患者の表現力に驚かされることがある。「内なる声をちゃんと表現できる喜びがあるのではないか」と感じている

 藍染めのれんをくぐると、壁に「居場所は探すものではなく『作るもの』です」と標語がかかる。ダイニングテーブルに腰かけ、絵を描いたり音楽を聴いたり。山陽病院の精神科デイケアに通う患者たちは、「居場所」で思い思いに過ごす。

 昨年3月に新病棟が完成。デイケアは4月に開設された。木材を多用した内装は「丸みを持たせ、安全安心をイメージした。『和と輪』がテーマ」と中島は言う。朴訥(ぼくとつ)に、一言ずつうなずきながら話す口調に、自然と落ち着きが宿る。

 父の中島良彦理事長も勤務した広島県府中市上下町や津山市の精神科病院で経験を積んだ。地方勤務で実感したのは、疾患を治してもそれで治療完了とは言えないということ。「住み処(か)」を失ったり、親や兄弟姉妹とうまくいかずに孤立する患者をたくさん見てきた。

 糖尿病など生活習慣病を併せ持つ患者も多い。専門医が塩分やカロリー制限を指示しても、家できちんと守れない患者をどう支援すればいいのか。「地域」の力が希薄になっていく中、岡山に戻った中島はトータルケアを考え続けた。

 デイケアはその試みの一つだ。十数人がゆるやかな日課をこなし、「イルカかーど」にその日一日のうれしかったこと、楽しかったこと、感動したことを記入する。1年たつと、みんなの前で発表する人も出てきた。

 家にこもって食べて寝るだけの生活だった人が、歩いて運動してデイケアに通い、一緒に給食を味わう。「できない人に自分でカロリー計算しなさいと言うのは無責任。しなくても済む環境をつくることが大切」と話す。

 家事全般を担っていた母を亡くした統合失調症の女性は、「自分がしないといけないのにできない…」と泣き続けた。特に食事に困っていた女性に、中島は「料理本の1ページ目から一品ずつメニューを作ってごらん」とアドバイスした。

 女性はコツコツと作り続け、今では子どもの弁当を作り、他の家事もこなすようになった。一種の認知行動療法だが、患者が何に困っているかを見抜き、一緒に向き合うのが肝心。「買い物ができない人にはネットスーパーの利用を勧めてみる。医師も援助する資源を勉強しておかないと」と中島は強調する。

 もちろん、薬も重要。夜が寝られない人に朝の薬を出しても飲まない。できるだけ眠前に薬を集める。生活習慣を聞き取り、必ず飲む時間帯にしておけば薬が続きやすい。

 新たに家族会も立ち上がった。世話役とともに茶話会や学習会の企画を進めている。患者を抱える家族は、自分たちだけが苦労してつらい目をしていると思い込みがち。「同じ苦労をしている仲間がこんなにたくさんいると気づき、家族の力が高まるきっかけになるはず」と期待する。

 それでも、どうしても家族の元へ帰れない人もいる。中島が次に目指すのはグループホーム。「賄い付き学生下宿のような形か、それともアパート形式か…」。病院と地域をつなぐ「和と輪」の構想をさらに膨らませる。(敬称略)

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 なかしま・ただお 岡山操山高、久留米大医学部卒。岡山大医学部精神神経学教室に入局し、岡山赤十字病院、積善病院(津山市)、公立上下湯ヶ丘病院(府中市)に勤務。2001年から山陽病院に勤務し、昨年10月に院長に就任した。朝の散歩で水鳥の写真を撮影している。

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 認知行動療法 ある出来事に対し瞬間的に頭に浮かぶ「自動思考」と呼ばれる認知に気づき、柔軟なバランスの取れた考え方に修正し、現実の問題解決を手助けすることによって精神科疾患の治療を目指す。患者には面接の話し合いを通じてホームワーク(宿題)が出され、日常生活で取り組む。治療者とともにできたかどうか振り返り、修正を検証していく。1970年代に米国でうつ病に対する精神療法として開発され、その後、統合失調症、不安障害など幅広い疾患で治療効果が認められている。

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 外来 中島院長の外来診察は毎週火・金曜日午前と土曜日午後。予約が必要。

山陽病院

岡山市中区藤崎465
電話 086―276―1101
ホームページ http://www.ryoyukai.or.jp/sanyo/index.html
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年05月20日 更新)

タグ: 精神疾患

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