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(2)食事の工夫 岡山赤十字病院栄養課長 下山英々子

しもやま・えいこ 1977年岡山赤十字病院に入り、2003年4月から現職。管理栄養士、病態栄養専門師、糖尿病療養指導士。

 さまざまな疾患の患者さんを見てきた経験から、少しでも食事の取れる患者さんはより元気になり、回復が早まるという印象があり、食べることの大切さを認識します。

 食欲がない患者さんが「食べられそうかな」と言われたものの特徴は、喉越しのよいもの、口当たりがよいもの、水分が多くてシンプルなもの、すぐに食べることができるもの、冷たくすっきりした味、酸味のきいたさっぱりした味、はっきりした味でした。

 食欲をそそる工夫としては、ご飯をおにぎりや海苔(のり)巻きに、パンをサンドイッチやフレンチトーストなどにと見た目を変える、いつもと違う場所での食事や、家族や友人との食事で気分を変えるのもよいです。

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 「残してしまった」という否定的な気分にならないように小盛りにしたり、少量しか受け付けない場合は、粥(かゆ)より軟らかいご飯や餅に、すまし汁より具だくさんのみそ汁、コンソメスープよりポタージュスープ、コーヒーより牛乳かヨーグルトの方が高カロリーの食事になります。栄養補助食品を活用するのも一つの方法で、そのまま飲めない場合や一度に飲めないときはゼリー・アイス、スープにアレンジしてみます。

 また、栄養のバランスや規則的な食事にこだわらず、調子のよいときを見計らって食べ、3食といわず、5〜6食に分けて腹五分目くらいに控えます。

 胃への負担が少ない調理方法は「煮る・蒸す・茹(ゆ)でる」で、食品では卵・豆腐・鶏ささ身・白身魚・はんぺん等がお勧めです。ゆっくりよく噛(か)んで時間をかけて食べると、唾液が食べ物とよく混ざってさらに消化のよいものになります。噛み砕いたり、飲み込んだりすることが困難な場合は、ゼリー状にする、とろみをつける、あんかけにする、ミキサーにかけるなどの工夫をします。

 味覚の変化に対しては、だし(天然だしがお勧め)をきかせること、少量の香辛料や香味野菜を利用して味にアクセントをつけること、普通の酢の他に柑橘(かんきつ)類の搾り汁を使ってみます。

 嗅覚の変化に対しては、においの強い野菜やにおいの充満する揚げ物料理を控えて、温かい料理は少し冷ましてから食卓に出します。これまで家族の食事作りを一手に引き受けてきた方は、家族に調理を頼んだり、市販のお総菜や加工食品(調理済み食品・冷凍食品・缶詰・インスタント食品・レトルト食品など)を利用します。症状が落ち着いた時に手作りの味をストックしたり、電子レンジや圧力鍋も活用します。

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 症状にあわせた食事の工夫がひと口でも多く、少しでも美味(おい)しく食べられることにつながり、がんの治療や治療の副作用に耐えられる栄養状態を保つことになります。

 世の中には「がんが治る食品」などの情報が数多くありますが、さまざまな効果の成分が含まれているとうたっていても、実際に人が食べたとき効くのかどうかについて、ほとんどの情報が科学的に証明されていません。氾濫する情報に左右されず、通常の食事を心がけましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月03日 更新)

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