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幼児救命の扉開く 岡山大病院の生体肺中葉移植成功

手術を終え、記者会見する大藤肺移植チーフ(右)ら=1日午後9時35分、岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で1日、世界で初めて成功した3歳男児への生体肺中葉移植。脳死による15歳未満の小児ドナー(臓器提供者)がなかなか現れない中、重い肺の病気を患う幼児やその家族に「生への希望」を与えた意義は極めて大きい。

 臓器提供は本来、臓器サイズが一致する同年代のドナーが最適とされる。2010年施行の改正臓器移植法は小児にも脳死臓器提供を認めたが、これまでに現れた小児ドナーはわずか2人。男児にとって脳死肺移植の可能性は乏しく、中葉移植に踏み切った最大の理由はここにある。

 しかし、一方で手術のリスクは高く、世界での実施の報告例は1992年、米国で4歳児の1例があるが、失敗に終わったという。岡山大病院の手術は診療科の枠を超えた30人からなる肺移植チームが手掛けた。ここ3年間でみても脳死、生体肺移植約40例を全て成功させた「精鋭チーム」(大藤剛宏肺移植チーフ)。今回もその連携力、技術力の高さを証明したといえる。

 ただ、移植した肺は今後もサイズがほとんど変わらないため、数年後には肺活量が不足するという。再度の肺移植が必要となるが、今回の成果は根本的な治療となる「次の移植」に向け、重要な一歩となったことは間違いない。

生体肺中葉移植の経過

6月25日 岡山大倫理委員会が、母親から右肺の中葉部分を切り取って男児に移す生体肺移植を承認

7月1日午前10時5分 母親からの摘出手術を開始

    午後1時35分 男児の手術開始

      6時45分 移植肺で呼吸を始める

      9時    手術終了


大藤執刀医「チーム誇りに思う」

 国内最年少患者への生体肺移植手術を終え、執刀した大藤剛宏チーフが1日夜、記者会見。「無事に任務を果たせた。われわれのチームを誇りに思う」と晴れ晴れと語った。

 「不安はあったが、多くの経験を積んだチーム。勝算はあった」と大藤チーフ。生体肺移植はドナーからの摘出と患者への移植を別々の医師で並行させるのが通例だが、今回は一人で母子ともに執刀した。男児の血管や気管支は細く、縫合にはより繊細さが求められた。それだけに「植えた中葉がいとおしくさえ思えた」と振り返った。

 肺の一部が破れ、手術しなければ余命数カ月ともみられた男児。生きるために選択した中葉移植だが、リスクは決して小さくなかった。大きな決断を下した家族は手術前、男児と記念写真を撮ったという。

 臓器を提供した母親は集中治療室のベッドで大藤チーフから移植の成功を聞き、「ほっとしました。意外と早かったですね」と安堵(あんど)の笑顔を見せた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月02日 更新)

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