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臓器移植法改正へ2案 岡山県内の関係者賛否

脳死肺移植を行う岡山大病院のスタッフ。脳死移植の機会拡大へ臓器移植法は改正に向け動き始めた(同病院提供)

 脳死者からの臓器提供を可能とした臓器移植法が、改正に向け再び動き出した。国会議員有志は3月、昨夏の郵政解散で廃案になった2案を衆院に再提出。家族の承諾で判定・提供を認めたり提供可能年齢を引き下げるなど、現在の条件を緩和して脳死移植の機会拡大を目指す。ただ、人の死生観にかかわる問題だけに、県内の関係者からは「あらためて人の死とは何かを考えるきっかけに」との声も上がる。

 「高額な渡航費が必要で、海外での脳死移植は壁が高い。国内での機会が増えれば移植を待つ患者も期待が持てる」。昨年、米国で心臓移植を受けた徳島県鳴門市、川上莉奈ちゃん(4つ)の祖母洋子さん(67)=岡山市国府市場=は、条件緩和の動きを歓迎する。

2カ月に1例

 臓器移植法は一九九七年の施行から八年半が経過した。この間、脳死移植が実現したのは四十四例と、提供者不足で二カ月に一例の割合にとどまる。約三十人の肺移植待機患者を抱える岡山大病院(岡山市鹿田町)は、脳死肺移植を八例行ったにすぎない。

 背景には、意思表示カードなど書面による本人の意思表示に加えて家族の承諾を求めるという、世界的にも厳しい提供条件が指摘される。

 現行法は、脳死での臓器提供ができる年齢を十五歳以上と規定。小児は体のサイズに合う臓器の提供を受けるのが難しい上、六歳未満は脳の回復力が高いとされることなどから脳死判定の対象外で、事実上、門は閉ざされている。このため、成人も含めて海外に渡るケースは後を絶たない。

家族どう関与

 改正二案はともに自民、公明の与党議員有志が提出。このうちA案は「本人が拒否していない限り家族の同意で判定・提供は可能」とし、提供可能年齢に制限は設けていない。もう一つのB案は、現行法の枠組みを維持しながら「提供可能年齢は十二歳以上」とする。

 A、B両案に対し日本移植学会理事の清水信義岡山大副学長は改正の趣旨は評価。その上で「多くの欧米諸国のように、残された家族の意思を尊重すべき」と強調する。さらに「免許証や保険証への意思表示を義務付けるだけでも全体数は増えるはず」と付け加える。

 別の意見もある。生命倫理に詳しい岡山弁護士会の近藤弦之介弁護士は「命の在り方は本人だけが決定できる。家族でも代わりに決めることはできない」と指摘し、本人の書面による意思表示は必要とする。年齢引き下げについても「脳死を理解するには精神的に未成熟」と反対する。

 さらにA案が「脳死は一律に人の死」としていることに、日本弁護士連合会は「社会的合意は成立していない」として、人権擁護の観点から立法化は是認できないと判断。厚生労働省などに意見書を出し、改正の動きを警戒する。

情報十分でない

 二〇〇四年の内閣府世論調査(三千人対象)では、八割が「臓器移植の情報は十分でない」と回答。従来の啓発活動も意思表示カードの配布に傾きがちで、「脳死は人の死か」を本格的に考える機会は決して多くはなかった。

 今回の改正案提出について、腎移植を手掛ける国立病院機構岡山医療センター(岡山市田益)の田中信一郎医師は「広く死とは何かを考える上で大きな意味を持つ。自分なら“その時”にどうするか、家族らと話すきっかけにしてほしい」と訴える。


ズーム

 脳死 呼吸をつかさどる脳幹を含めて脳全体の機能が失われ回復しない状態。やがて死に至る。脳幹の働きが維持され自力呼吸可能な植物状態とは異なる。国内では脳死は、臓器提供を前提とした判定で確認された場合だけ「人の死」とされる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年05月09日 更新)

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