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(70) 頸椎手術 脳神経センター大田記念病院 大隣辰哉 脊椎脊髄外科医師(40) 脊髄や神経根圧迫を除去 体の負担より少なく

手術用顕微鏡を使い、体に負担の少ない術法を探求する大隣医師。独善的にならず質を高めるため、学会での治療成績報告や論文発表も積極的にしている

 首の骨である頸椎(けいつい)は、10代後半から老化が始まるとされる。重い頭部を支え、頻繁に動くだけに消耗も早いわけだ。

 老化は避けられないにしても、痛みやしびれを感じれば看過できない。「特に中枢神経の脊髄に異常がある場合、放置していれば症状が残ってしまう」。この領域のスペシャリスト、大隣が警鐘を鳴らす。

 頸椎は、首からお尻まで約30個の椎骨が連結された背骨のうち、最上部の7個を指す。椎骨は円柱状の椎体と半円形の椎弓の間に穴(椎孔)があり、上下に連なって脊柱管を形成する。この中を脳から直接延びた頸髄(脊髄)が通り、手や肩に向かう神経根が枝分かれしている。

 椎体と椎体の間には、クッションの働きをする椎間板が挟まれている。ゼリー状の髄核を線維輪という硬い外層が包む構造だが、加齢とともに押しつぶされて線維輪が外にはみ出す。

 中から外に飛び出た髄核が、脊髄や神経根を圧迫するのが頸椎椎間板ヘルニア。さらに椎体が変形し、骨棘(こっきょく)という出っ張りやはみ出た線維輪が同様な支障を来すのが頸椎症である。

 圧迫が神経根に及ぶと、首から片方の肩、腕まで痛みやしびれが出て、手や腕の一部に力が入らなくなることもある。脊髄の場合は両手足のしびれ、まひや排尿・排便障害も引き起こす。要注意は後者の脊髄症だ。

 末梢(まっしょう)神経である神経根は、症状がより強く現れるが、回復力も旺盛なため、鎮痛剤などで対処し手術まで至らぬ例が多い。

 対して脊髄は鈍感で、相当圧迫を受けても軽いしびれ程度しか感じないケースが多々ある。その上、回復力が非常に乏しい。「安易な経過観察では悪化し、神経障害が残る。病態を的確に見極め、時機を逸することなく手術する必要がある」と説く。

 手術は頸部の前・後から行う方法がある。前者は首左側をしわに沿って7~8センチ切開し、気管と食道を右側へ引き寄せながら椎体前面に術具を挿入。脊髄の方へ進めて骨棘や椎間板の突出部を削り、術中に骨盤から採った骨などを詰め固定する。

 もう一方は後頸部を7~10センチ切開し、術具で椎弓に縦2本の溝をつけ、片方を切り離してドアのように開く。脊柱管を広げて圧迫を取り除くわけだが、大隣は2010年から独自法も取り入れている。「後頸部の項靱帯(じんたい)や筋肉の温存に努め、椎弓を最小限の幅で削る」と言う。

 手術は顕微鏡を見ながら、神経を傷付けないよう慎重に行い、いずれも2~3時間程度。「通常は術後9~12日で退院でき、仕事や学業への復帰目安は3週間~2カ月」と話す。

 大田記念病院は脊椎手術を昨年180例実施。大隣は頸椎手術57例の大部分を含め114例に携わり、06年の赴任以来では1100例を超すが、それまでの道程は平たんではなかった。

 母校を卒業し脳神経外科に入局。臨床経験を積んだが、脳疾患の診療、手術に忙殺され、「全身の神経を診られる医師に」と初心に帰り同病院へ。整形外科出身の副院長・脊椎脊髄外科部長西原伸治(のぶはる)、同科顧問で脳神経外科出身の脊髄腫瘍手術の大家・小山素麿(つねまろ)に学び躍進した。

 「体の負担がより少ない術法で、苦痛を極力軽減したい」。追い求めるものは、患者の願いとたがわない。(敬称略)


 おおとなり・たつや 大分県立大分南高、産業医科大卒。門司労災病院(現九州労災病院門司メディカルセンター、北九州市)、宮崎県済生会日向病院、新潟労災病院などに勤め、2006年4月から現職。日本脊髄外科学会指導医、日本脳神経外科学会専門医。医学生時代はボート部に所属し、今も職場チームで地元の芦田川レガッタに出場している。


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 外来 大隣医師の外来診察は火・木曜日午前(8時半~11時受け付け)。

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脳神経センター大田記念病院
福山市沖野上町3の6の28
電話 084―931―8650
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月18日 更新)

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