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(下)脳梗塞の血管内治療 脳神経センター大田記念病院(福山市)脳神経外科部長 大田慎三

脳神経外科部長 大田慎三

【写真1】「血栓除去型」のカテーテル先端部

【写真2】「血栓吸引型」のカテーテル先端部

血流をいかに早く再開するか

 超急性期の脳梗塞の患者さんが、救急車で搬送されてきたとき、医師が取り組むことは、いかに短時間に診断し、脳血管に詰まった血栓を取り除くか、ということです。これを「血行再建」といいます。血流を早く再開できれば、脳の組織が壊れる範囲を狭められ、マヒや言語障害などの後遺症も軽くなるからです。

 医療機関では、まずCTとMRIの画像検査を行い、脳梗塞であると確定したら、発症から4・5時間以内の場合は、「t―PA静注療法(血栓溶解療法)」を選択します。これは血栓を溶かす薬剤を静脈に注射する方法で、従来は発症3時間以内にしか使えませんでしたが、2012年8月から発症4・5時間以内までが健康保険の適用範囲となりました。

 しかし、全ての人にt―PA静注療法が適用されるわけではありません。発症時間がわからない人、適用時間が過ぎてしまった人、過去に頭蓋内出血や3カ月以内に脳梗塞を起こしていた人等は使うことができないのです。

進化する血管内治療 

 t―PA静注療法を適用することができない人や、行っても血流が再開しなかった人に対しては、脳梗塞の発症から8時間以内の場合、カテーテルという細い管を使った血管内治療が用いられます。このカテーテルが日々進化を続けています。

 写真1のカテーテルは、先端部が「血栓除去型」と言われるものです。太腿ももの付け根付近にある「大腿だいたい動脈」に太い針を刺し、そこからカテーテルを差し込み、脳血管を詰まらせている血栓付近まで進めます。そのうえで管状のカテーテルの中に除去用ワイヤーを挿入します。血管を傷つけないようワイヤーを血栓に突き刺すようにすすめ、血栓を捉えたら、ワイヤーを引き戻します。そうするとワイヤーの先端がバネのようにクルクル巻きとなり、血栓をからめとるという仕組みです。この先端部には、もうひとつ仕掛けがあります。血栓の取り逃がしがないよう、ワイヤーより細いフィラメント6本が飛び出し、血栓に巻きつくのです。

 写真2のカテーテルは、「血栓吸引型」のものです。血栓除去型のものと同じく、脳血管を詰まらせている血栓付近にまでカテーテルを挿入。続いてカテーテル内に血栓を引き込むガイドワイヤーを挿入し、血栓に先端を差し込み、血栓の塊が逃げないようにします。そのうえで、体外にあるカテーテルの終端に吸引ポンプを着け、血栓を吸い出します。

 血管内治療は局所麻酔を行うだけであり、鎮静剤や鎮痛剤も組み合わせるため、身体への負担は開頭手術と比べれば、はるかに低いものです。

Aさんの事例から  

 Aさんは、60代後半。ある朝、職場で、「うーん」と唸(うな)って倒れ込みました。倒れてから15分で救急車が到着、30分後には当院に到着しました。到着したときには、医師の呼びかけで目は開くものの、話すことはできませんでした。

 CT、MRI検査により脳梗塞と判明。t―PA静注療法を行いましたが、実施後1時間で血流再開が認められなかったため、血管内治療を実施することになりました。その結果、血流が再開。翌日には会話も起床も可能となりました。そして、マヒも軽く、退院後の生活も以前と変わらない状態まで改善しました。

 職場の同僚が脳梗塞の症状を知っていたことから、救急車の手配が早く、迅速に治療を開始できたことが、脳梗塞特有の後遺症を軽くしました。

 脳梗塞が発生すると、「話ができない、ろれつがまわらない」「片方の手足の動きが悪い」「視野が狭い、見えにくい」「意識が遠くなる、なくなる」「よろよろする、歩けない」といった症状が出ます。疑わしい症状が見られたら1分でも早く119番に通報することが、最も大切な行動です。

 おおた・しんぞう 米国ユタ州イースト・ハイスクール、岡山大医学部卒。卒業後、広島大医学部脳神経外科入局。1995年、脳神経センター大田記念病院入職。2005年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月02日 更新)

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