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(3)嚥下(えんげ)障害のリハビリテーション 岡山リハビリテーション病院 医師 佐々原渉

佐々原渉医師

嚥下造影検査(VF検査)の画像

嚥下障害とは

 近年の疾病の重症化や高齢化社会に伴い、「口から食物を摂取する」すなわち嚥下に問題を抱える患者さんが増加しています。摂食・嚥下障害が重度となれば、栄養補給を経管栄養や点滴に頼らざるを得なくなることも少なくなく、患者さんのQOL(生活の質)が大きく低下してしまいます。また嚥下障害が原因となり誤嚥性肺炎を起こした場合には生命に危険が及ぶこともあります。

 正常の摂食・嚥下は(1)食物を認識し(先行期)(2)口の中に取り込んで咀嚼(そしゃく)し(準備期)(3)飲み込みやすくなった食物を咽頭の方へ送り込み(口腔(こうくう)期)(4)嚥下反射によって食塊を咽頭を通過して食道へと送り込み(咽頭期)(5)蠕動(ぜんどう)運動によって食塊を食道から胃に送り込む(食道期)―の5段階から成ります。これらのいずれかの段階に障害がある状態を嚥下障害といいます。

原因となる疾患

 嚥下障害を引き起こす原因は多岐にわたります。大きく分けて摂食・嚥下に関連する神経や筋肉の障害により起こる機能的障害と、嚥下に関連する諸器官の通過に問題が起こる器質的障害、食物を認識する段階に障害があって起こる摂食障害などがあります。

 機能的障害の原因となる代表的な疾患には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、パーキンソン病などの変性疾患、脳腫瘍、加齢に伴う変化などがあります。器質性嚥下障害には、頭頸部(とうけいぶ)の腫瘍や炎症、奇形などがあります。摂食障害をきたす代表的な疾患には高次脳機能障害や認知症があります。

嚥下障害の検査・診断

 嚥下障害が疑われる症状として食事前後のむせ、咳(せき)、咽頭異常感、食物残留感、食欲低下、食事時間の延長、繰り返す誤嚥性肺炎などがあります。嚥下障害が疑われる場合には、水飲みテストや反復唾液飲みテストなどのスクリーニング検査を行います。当院では嚥下障害の診断に嚥下造影検査(VF検査)や嚥下内視鏡検査(VE検査)を行っています。

回復期リハビリテーションでの取り組み

 当院は129床の病床をもち、全床が回復期リハビリテーション病棟として運用されています。回復期リハビリテーション病棟では医師、看護師・介護士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、メディカルソーシャルワーカー、管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師などの多職種でチームを構成し、リハビリ医療を実践しています。

 嚥下障害に対するリハビリテーションにおいても、多職種の連携を軸に「口から食事をとる」ことを目標としたチーム医療が行われています。また当院の給食委託業者とも嚥下障害患者さんの食事について綿密に連携を取りあい、安全でおいしい食事を提供できるよう日々努力しております。

 嚥下障害のリハビリの中心となるのは当院では医師と言語聴覚士です。当院では13人の言語聴覚士が、入院時の食事評価および嚥下障害スクリーニングを行っており、嚥下障害が疑われる患者さんに対しては専門的に介入していきます。必要に応じて医師が嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査による評価を行い、その結果に基づいて嚥下リハビリテーションを実施しています。

 嚥下リハビリテーションには食べ物を用いない間接的訓練と実際に食べ物を用いて訓練を行う直接的訓練があります。間接的訓練は誤嚥の危険が高く、直接訓練を行うことができない場合や経口摂取している場合でも、嚥下器官への刺激や運動により嚥下機能を改善する目的で用います。一方、直接的訓練は安全な(誤嚥を起こさせない)食物形態や姿勢を検討し、簡単なものからより難しいものへと実際に嚥下をしてもらい、繰り返し評価を行いながら徐々に嚥下機能の向上を図っていく方法です。実際には医師の指示のもと両訓練を嚥下障害の程度に合わせて組み合わせながら同時並行的に行います。

 看護・介護部門では嚥下を促進するための口周辺のマッサージなどを実施しています。また医師と言語聴覚士の指導をもとに患者さんの嚥下機能に合わせた食事形態・スプーンなどの選別を行い、食事介助を行っています。また摂食には口腔内環境、歯の状態も大きく影響するため、看護師が歯科衛生士と協力して口腔ケアを日々行っています。

 嚥下障害を抱える患者さんに対する食事提供は、リハビリとして重要であるだけではなく、患者さんのQOLの面でも重要となります。当院が給食を委託している会社は、当院での嚥下障害のリハビリテーションチームの一員となり、日々連携をとりながらおいしく安全な嚥下困難食を提供していただいております。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年04月07日 更新)

タグ: 介護高齢者

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