文字 

8020を達成するためには? 笠岡第一病院 口腔ケア学会認定歯科衛生士 土肥真紀子

土肥真紀子歯科衛生士

 「8020運動」とは80歳になっても自分の歯を20本以上残そうという運動です。自分の歯が20本あるかないかで、噛(か)みやすさや食事内容が大きく異なります。また、残っている歯の数が多いほど体の健康を良好に保つことができます。80歳になっても自分の歯を20本以上保つことは健康で長生きするための大切な目標となります。

 「8020」を達成するためにはまず歯を失う原因について理解する必要があります。歯を失う原因の約7割が歯周病とむし歯です。

 歯周病とは、歯垢(しこう)(プラーク)中に存在する細菌によって引き起こされる歯周組織の炎症性疾患です。歯周病は痛みなどの自覚症状がなく進行することが多いため、気づいた時には手遅れになっている場合があります。

 歯周病の原因である歯垢はお口の中に存在する300種類以上もの細菌の塊です。歯垢が付着したままになると唾液中のカルシウムの働きにより硬くなり、数日で歯石となります。歯垢は歯ブラシ等で容易に除去が可能ですが、歯石になると歯科医院で専用器具による除去が必要となります。

 歯周病はまず歯垢中の細菌によって歯肉に炎症を引き起こします。この状態を歯肉炎といいます=図1参照。歯肉炎は歯垢・歯石を取り除き正しい歯磨きを行えば改善します。歯肉炎が進行すると歯周炎になります。細菌が歯と歯肉の間の溝(歯周ポケット)に入り増殖し、歯の周囲組織を破壊します。さらに炎症が進行すると歯槽骨(歯を支えている骨)の吸収により歯がぐらつき最後には歯を失うこととなります。また歯周病はお口の中だけの病気ではなく糖尿病や心臓病・脳梗塞等の全身疾患にも深く関連していることが報告されています。

 歯周病の次に多い歯の喪失原因は、むし歯です。「細菌」「歯の質」「糖質」の三つの要因にさらに時間の経過という要因が加わることでむし歯がつくられます=【図2】参照。

 初期むし歯では自覚症状はなく歯の表層が白濁してきます。これを「脱灰」といいます。この段階では唾液の働きやフッ素の利用により再石灰化され、元の状態に戻ることができます。しかし初期むし歯を放置していると徐々にむし歯は歯の内部に広がり、痛みを感じるようになります。さらに進行すると歯髄(神経)にまで到達し、顎の骨にまで炎症を広げることがあります。

 歯周病やむし歯による歯の喪失を防ぐ一番の予防法は歯磨きです。歯と歯肉の境目や歯と歯の間、歯の裏側、詰め物やかぶせをしている歯の周りは磨きにくく、磨いたつもりでも汚れが付着していることが多いです。また歯ブラシのみでは汚れを取りきることは難しいです。デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシ等の補助用具を併用することで清掃効果を高めることができます。歯と歯の間にはデンタルフロスや歯間ブラシを使用し、歯並びが凸凹している部分や磨きにくい部分等には、ひと束ブラシ(ワンタフト)をお勧めします。お口の中の状態は人それぞれ異なります。ご自身に適した方法・用具の選択を歯科医院でぜひご相談ください。

 8020を達成するためには日々のお口のお手入れ、定期的な検診によるお口のチェックと専門的なケアが重要です。また8020が達成できなかった方も、入れ歯やブリッジ(つながったかぶせ)等の治療で噛む能力をある程度まで回復させることができます。

 歯の大切さは失ってからあらためて気づかされます。8020を達成するためには個々の意識が大事です。お口の健康は全身の健康につながります。歯の寿命を伸ばし、健康寿命を伸ばしていきましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年04月07日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ