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意外と身近なパーキンソン病 岡山西大寺病院 総合診療科・脳神経外科医師 菊池陽一郎

きくち・よういちろう 島根県立出雲高、岡山大医学部卒。岡山市民病院、香川県立中央病院などを経て2012年6月から岡山西大寺病院勤務。日本脳神経外科学会専門医、日本プライマリ・ケア学会認定医・指導医。

 皆さん、「レナードの朝」という映画を見たことがありますか? ロバート・デ・ニーロがパーキンソン病患者役を演じた映画です。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なら見たことがあるでしょうか。主演のマイケル・J・フォックスは30歳の若さでパーキンソン病を発症し、パーキンソン病の研究助成活動を始め財団を設立しました。

 「蝶(ちょう)のように舞い、蜂のように刺す」で有名なボクサーのモハメド・アリも引退後にパーキンソン病になりました。1996年のアトランタオリンピック開会式で、震える手で聖火台に点火されたのを覚えておられるでしょうか。日本人では岡本太郎さん、江戸川乱歩さんもパーキンソン病であったようです。

日本に患者15万人

 パーキンソン病は、脳が出す運動の指令がうまく伝わらず、スムーズに動けなくなる病気です。パーキンソン病は50〜60歳代で発症することが多く、ゆっくりと進行します。日本にはおよそ15万人の患者さんがいます。すなわち日本人の約1000人に1人がこの病気にかかると考えられています。高齢者に多い病気ですが、若い人でも発症することがあります。

 イメージとしては「神経の老化が早く進行してしまう」感じです。体の運動機能を「動力を伝える歯車」に例えると、その中の「ドーパミン神経の歯車」が早くに摩耗・劣化してきてしまうのです。原因は諸説いわれておりますが、まだはっきりと解明されておりません。

 パーキンソン病によく似た病気は他にもたくさんあります。パーキンソン病っぽい症状を呈する病気を全部ひっくるめて「パーキンソン症候群」といいます。ウィリアム・リチャード・ガワーズは著書の中でパーキンソン病患者の特徴をよくつかんだスケッチを載せております。パーキンソン病の症状には大きく分けて「運動症状」と「非運動症状」があります=図参照。…よく考えると、年を取ればみんなそれなりに出てきそうな症状ですね。

治療

 さびついた歯車を回すには、すなわち治療するにはどうしたらよいのでしょうか。

 (1)潤滑油をさす(=薬をのむ)。これが現在の治療の主流です。

 (2)運動をする、リハビリをする(歯車を回していないと、くっついて固まってしまう)。

 (3)歯車の手入れをする(家族や地域がサポートしてあげる)。

 (4)脳深部刺激療法(Deep brain stimulation=DBS)という治療もあります。これは手術で脳の中に電極をいれて電気刺激を行う治療法です。歯車を動きにくくする原因の「さび」をこそげ取るサビトリの感覚でしょうか。潤滑油(薬)の効率もよくなります。

 (5)歯車を取り換える治療(すなわち再生医療)はまだ世界中で研究中です。

 潤滑油(薬)にはいろんなものが開発されています。長持ちする油、少量で潤滑がすごくよくなる油、飲むタイプ、貼るタイプ、注射のタイプ、良いものがいろいろ出てきております。でも油はさせばさすほどいいというものではありません。それぞれの個々人の歯車にあった適量の油を使わないといけません。合わない油を下手に使うと、歯車はベトベトになってしまい副作用がでます。

 (1)〜(4)の治療法の使い分け・組み合わせは専門の先生に尋ねましょう。(3)に関しては、家族のかかわりが一番大切ですが、病状が進行してくると、家族だけでは手に負えなくなることもあります。日本にはいろんなサポート体制があるので確認してみましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年05月19日 更新)

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