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(1)気後れが手遅れを招く チクバ外科・胃腸科・肛門科病院長 瀧上隆夫

たきうえ・たかお 高梁高、岡山大医学部卒。1978年からチクバ外科・胃腸科・肛門科に勤務。ニューヨークで新谷弘美医師に師事し大腸内視鏡検査を研修。2000年チクバ外科・胃腸科・肛門科病院長に就任。日本大腸肛門病学会専門医・指導医・評議員。

 誰でもお尻から出血した、お尻が痛い、などの経験はあると思います。症状に悩んでいても、昔から肛門、排便の話はタブー視されていて、誰にも言えないし、ましてや病院に行くには勇気が足りない。患ってみると、あらためて日々の快食、快便の大切さを思い知らされます。

 実際に、お尻に不具合を感じた時に病院を受診したいのだが、従来の肛門科に対する悪いイメージが払拭(ふっしょく)されないまま“恥ずかしい、痛い、すぐ切られる”のでは、と思い煩っていて、受診の機会を遅らせ、気後れが手遅れを招いてしまいかねません。日常診療の中で多くの患者さんを診ていると、肛門の奥、大腸の病気が増悪したことが本人は“痔(じ)”が悪くなったと思って来院しているケースを時々経験します。

 ずっと以前には、肛門の治療にも腐蝕(ふしょく)療法などの民間療法が主流であったり、手術不要なものを切ったり、切り過ぎて肛門機能を損ねたり、逆に肛門狭窄(きょうさく)を来し排便困難を起こすような弊害が多く、肛門病学は“お尻の谷間”ではなく、まさに“医療の谷間”にあったのです。

 わが国でも昭和40年頃より肛門病学も純粋に学問的になり、後遺症や合併症の少ない治療法が確立して、専門の学会も設立され、熟練した専門医も大勢育ってきました。

 一般には肛門疾患(痔(じ))と言えば、痔核(イボ痔)ぐらいしか思いつかないでしょうが、私たちが治療している肛門疾患には表のようにたくさんの疾患があります。

 痔核(イボ痔)、痔瘻(じろう)(アナ痔)、裂肛(キレ痔)は肛門の三大疾患と言って、全体の85%にあたります。

 他には長寿社会になっての肛門括約筋不全、直腸脱、痔瘻と類似する毛巣瘻、化膿(かのう)性汗腺炎などがあります。肛門周囲膿瘍(のうよう)は、肛門周囲が感染して膿(うみ)がたまる痔瘻の初期の病気ですが、放置すると、場合によってはフルニエ症候群と呼ばれる重篤な病気になるものもあります。肛門周囲にも皮膚がん(扁平(へんぺい)上皮がん、悪性黒色腫、paget病、Bowen病)、白血病などの血液疾患によるもの、痔瘻を長年放置してなる痔瘻がんなど悪性の生命に関わる病気もあります。

 自己診断は危険です。症状があれば早めに専門医を受診して、大腸を含めての肛門診察を受けられ、“気後れが手遅れを招く”ことのないようお勧めします。

◇ チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年06月02日 更新)

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