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中性子で頭頸部がん破壊 川崎医大病院が治験開始

平塚純一教授

 放射線を使った次世代のがん治療法「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」による難治性頭頸部(けいぶ)がんの臨床試験(治験)を川崎医科大付属病院(倉敷市松島)が始めた。世界で初めて開発された中性子を発生させる医療用加速器を使用。がん細胞をピンポイントで破壊するため、従来の放射線治療に比べ安全で副作用が少ないと期待される。早ければ5年後の実用化を目指す。

 この治療法は、がん細胞に集まる性質を持つホウ素化合物を点滴で体内に注入。弱い中性子(放射線の一つ)を照射すると、がん細胞に取り込まれたホウ素が反応し、そこで発生するアルファ線ががん細胞のみを破壊する。

 喉頭(こうとう)がんや舌がんといった頭頸部がんは、手術で切除すると会話や食事に支障が出ることもあり、患者は放射線治療を選択することが多い。ただ従来は正常な細胞を傷つけてしまい副作用が懸念されていた。BNCTは、組織層を越えて広がり境界が不明瞭な浸潤がんや、再発がんにも有効とされる。

 川崎医科大付属病院放射線治療科では、2003年から平塚純一教授らが難治性頭頸部がんと皮膚がん患者に臨床研究としてBNCTを実施してきた。今回の治験は手術、抗がん剤など標準的な治療では効果が期待できない患者が対象。平塚教授らが患者と一緒に京都大原子炉実験所(大阪府熊取町)へ移動し、最大45分の照射を1回行う。

 平塚教授は「これまでの臨床研究では、約半数で腫瘍が消失し、8年以上の生存が可能になった例もある。頭頸部がんは機能や容姿の面からもQOL(生活の質)を低下させない治療法の開発が急務で、BNCTが一般治療となれば患者にとって福音となる」としている。

 BNCTは1968年に研究用原子炉を使ってスタート。京都大原子炉実験所と日本原子力研究開発機構(茨城県東海村、休止中)で行われてきた。

 病院向けの機器は住友重機械工業が開発。2008年、京都大原子炉実験所に設置され、12年秋から脳腫瘍の一つ再発悪性神経膠腫(こうしゅ)(グリオーマ)の治験を開始。今春から難治性頭頸部がんが加わった。

 取り組みは内閣府が推進する「先端医療開発特区(スーパー特区)」にも採択されている。


 ホウ素中性子捕捉療法用加速器 核燃料などを使う原子炉に代わり、陽子を加速して飛ばす装置。円形や直線の加速器で発生させた陽子をベリリウムやリチウムなどの金属に当てた時に生じる中性子を利用する。照射する中性子は治療に適したエネルギーに減速させる。原子炉より操作が簡単で、設置面積(縦15メートル、横18メートル程度)が小さいため、特別な施設は不要になり病院内にも置ける。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年07月03日 更新)

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